石造物を作り手がわからみるとき、石工と並んで重要なのが石材の問題である。しかし、残念ながら市域の石造物について石材の面からの調査はおこなわれていないのが現状である。そのため現段階では漠然と、善光寺周辺や境内に建てられている石造物の多くは往生寺の郷路山(ごうろやま)から採られる郷路石(安山岩)でつくられており、市域南部の石造物には松代町柴(しば)の柴石(安山岩)が用いられているといえるくらいである。近世の史料ではないが明治十年代に編さんされた『町村誌』には、市域とその周辺で何ヵ所か石材を産出するところがみられ、当時における概要をわずかながらうかがうことができる(表3)。
しかし、柴石・生萱(いきがや)石を産出した柴村や生萱村(千曲市)の項には、石材についての記載がみられないなど、『町村誌』での記述はかならずしもすべてではない。いずれにせよ石材の問題は、石工や石切の技術、あるいは彼らの経済活動を明らかにするうえで、地質や歴史、民俗の分野から明らかにしていかなければならない課題であろう。