中核市のスタートと長野広域連合

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中核市の制度は、平成元年(一九八九)七月全国市長会が示した「都市自治体への権限移譲等に関する具体的方策について」の趣旨や、同年十二月に臨時行政改革推進審議会が「国と地方の関係等に関する答申」で示した「地域中核都市」構想などをふまえて、地方制度調査会が平成三年度から二年間にわたり審議し、平成五年四月に「広域連合および中核市に関する答申」としてだされたものである。さらに、それが平成六年六月二十二日「地方自治法の一部改正法律案」として国会で可決され、翌七年四月一日に施行された。これにより、全国では翌八年四月一日に、初めて一二市が中核市に移行した。

 中核市の要件としては、①人口三〇万人以上(長野市三五万八〇〇〇人余)、②面積一〇〇平方キロメートル以上(長野市四〇四平方キロメートル余)であった。長野市は平成十一年四月一日中核市に移行したが、この時点で要件を満たした市は二九市あったが、そのうち、二五市(長野市など)が中核市に移行した。中核市移行への手つづきは、要件を満たしている市が市議会の議決を経て県に同意を申しだし、県が県議会の議決を経て同意すれば、市は国に移行の申し出をして、国が指定するというものであった。

 長野市は中核市移行当日、午前八時から市役所玄関ロビーで移行式をおこない、市会議員・市の職員など一五〇人が参列し、塚田市長が「長野市は中核市となります。よりいっそう行政サービスの向上と住みよいまちづくりにつとめ、中核市として地方自治の新時代をひらくことを、ここに宣言します」と中核市宣言文を読みあげた。


写真5 中核市の宣言文

 移行により県から市に移譲された事務は、二七七八項目におよび、そのうち、保健所関係をふくむ保健衛生行政に関する事務が約六〇パーセントの一七〇〇項目と最も多くをしめている。また、二七七八項目のうち国の法律・政令・要綱などに基づく事務が二〇〇九項目(約七二パーセント)、県の単独事務が七六九項目(約二八パーセント)となっている。なお、このうち、一四五項目(約五パーセント)は以前から委任されていたものであった。

 とくに、保健所の開設は「地域保健法」により中核市には設置が義務づけられていたため、市は平成八年五月三十一日保健所設置推進委員会を設置し、市保健所の在りかたについて検討をかさね、建設位置は川合新田とした。この周辺には、長野赤十字病院、長野市医師会、長野市薬剤師会、長野市中高年齢労働者福祉センター、長野市社会福祉総合センターなどの医療・福祉関係の施設があり、関連機関との連携がとりやすい利点があった。

 中核市移行による効果としては、つぎのような点があげられている。

 (1) 行政サービスの効率化

①民生委員の推薦から委嘱までの期間短縮、②身体障害者手帳や母子・寡婦(かふ)福祉資金の申請から交付・貸し付けまでの期間が短縮、③浄化槽設置届けの受理が短縮、④土地区画整理の申請から認可までの期間が短縮する。

 (2) きめ細かな行政サービス

①地方社会福祉審議会の設置により、社会福祉のあり方や多様化する市民ニーズへの対応などについて、広範囲な審議が可能となる、②廃棄物関係事務の市への一元化により、廃棄物処理についての迅速な指導・監督等と総合的な対応が可能となる、③水質汚染、大気汚染防止等の届け出窓口の市への一元化により、事業者の利便性が向上し、迅速な指導・監督等の体制が可能となる。

 (3) 独自のまちづくりの展開

屋外公告物条例の制定により、独自の景観施策の推進が可能となる。

 (4) 保健所設置による総合的保健行政の展開

保健所と保健センターによる一体的な保健行政の展開と、地区担当保健師やケースワーカーとの連携により、一貫した指導が可能となる。

 (5) その他

外部監査制度の導入により、監査機能の専門性・独自性が強化される。

 中核市移行にともなう市財政への影響額(平成十一年度)は、民生、保健衛生、環境、都市計画・建設の各事務区分を合わせて、一八億九二八三万六〇〇〇円の増額となっており、その財源内訳は、国庫支出金一〇億四〇一〇万二〇〇〇円、市一般財源二四億二一三四万六〇〇〇円、その他四三三〇万六〇〇〇円であるが、県支出金は逆に前年度比マイナス一六億一一九一万八〇〇〇円で、実質は零(ゼロ)となっている。

 そのため、中核市になっての今後の課題としては、権限移譲と税財源の確保が必要であり、また、広域行政圏の中心都市としての役割や行政改革の推進、職員の資質向上、市民参加によるまちづくりの推進などがあげられている(『中核市へのあゆみ』)。


写真6 第二庁舎に「祝中核市移行」のたれ幕

 長野広域連合は、その前身である「長野地域広域市町村圏」が昭和四十六年(一九七一)の指定から始まり、平成五年には、「長野広域行政組合」と名称を変更し、平成十二年に至ってこれを発展的に解散して「長野広域連合」として発足したものである。なおこの間、平成四年九月には表3でみるように「長野地域ふるさと市町村圏」の指定もうけている。


表3 長野広域連合発足までの沿革

 国(自治省)は、昭和四十年代の経済発展と地域社会の変動に対処し、より豊かな地域社会を建設するために、都市および周辺農山漁村地域を一体として、日常社会生活圏を場とする広域行政の体制整備をすすめた。昭和四十五年四月「広域市町村圏振興整備措置要綱」を全国に通知して実施をはかった。その大要はつぎのようである。

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① 都道府県知事は、関係のある市町村と協議のうえ、広域市町村圏を設定するものとする。

② 市町村圏の設定は、およそ一〇万人以上の規模を標準とし、原則としてすべての市町村が、いずれか一つの広域市町村に属する。

③ 広域行政機構としては、関係市町村圏の協議会を設置し、「広域市町村圏計画」を策定し、一部事務組合を設置する。

 これにより、四十六年七月十五日、長野県は一〇ヵ所の広域市町村圏に分けられ、このうち図3のように長野市を中心とした北信の一八市町村が「長野地域広域市町村圏」に指定された。そして同年九月一日、行政機構として「長野地域広域市町村圏協議会」が設置された。四十七年「広域市町村圏計画」を策定し、以後、具体的な活動にはいったが、不燃物処理や養護老人ホームなどは、関係市町村による「広域行政事務組合」を設立して、それぞれ目的にそって運営にあたった。これら事務組合の活動もふくめて、昭和六十年代から平成十一年(一九九九)までのおもな活動は、つぎのようである。

① 昭和五十一年四月一日長野地域広域行政事務組合を設立、長野地域広域市町村圏協議会と長野不燃物処理施設組合・長野広域老人福祉施設組合・長野広域病院組合を統合

 この統合までの間に、昭和三十八年長野広域病院・四十八年長野プレス工場(大豆島の現清掃センター・五十年特別養護(以下特養)老人ホーム久米路荘・五十一年同小布施荘・五十五年同松寿荘がそれぞれ設置されていた。

 ② 昭和五十五年四月一日長水老人福祉施設組合を統合

五十八年特養老人ホーム杏寿荘・五十九年同七二会荘・六十一年同矢筒荘・同須坂荘・養護老人ホーム兼特養老人ホーム(松寿荘移転改築)・六十三年長野市から若槻デイサービスセンター受託・平成元年(一九八九)長野広域病院改築・長野プレス工場(のち一時閉鎖)を長野市へ譲渡

 ③ 平成四年九月一日「長野地域ふるさと市町村圏」に指定

同五年ふるさと市町村圏事業特別会計を設置・ふるさと市町村圏基金を造成(平成四年度・五年度に一〇億円)

 ④ 平成五年四月一日長野広域行政組合に名称変更

同五年「長野地域ふるさと市町村圏計画」策定(同十年に同後期基本計画策定)し、老人ホーム入所判定委員会を設置・信州博覧会へ長野広域館出展・同六年牟礼村から、むれデイサービスセンター受託・八年特養老人ホーム豊岡荘設置・戸隠村から戸隠中央サービスセンター受託・同村から戸隠在宅介護センター受託・十年長野広域病院廃止・十一年特養老人ホーム久米路荘移転・信州新町から信州新町同サービスセンター受託

⑤ 平成十一年事務局に、総務課・施設課・介護認定審査室・環境推進室を設置、同年事務局を長野市城山分室へ移転、同年十月事務局に広域連合準備室を設置、同十二年三月三十一日長野広域行政組合は発展的に解散して、十二年四月一日新たに「長野広域連合」が発足した。


図3 長野地域広域市町村圏


写真7 城山分室(旧NHK)に置かれた長野広域連合事務局

 広域連合は、全国的には平成七年六月から施行されている制度であり、様々な広域的ニーズに対応するとともに、権限移譲の受け入れ体制を整備するため施行されたものである。

 長野広域連合の範囲は、これまでの一部広域行政組合と同じであり、その業務(事務)の内容もほぼ似たものであるが、直接に国または都道府県から権限の移譲を受けることができ、個々の市町村では実施困難でも、広域的団体であれば実施可能な事務を法や条例の定めによって、直接処理できる点があげられている。十三年四月一日には埴科老人福祉施設組合を統合した。広域連合のおもな業務はつぎのようである。

 ①老人福祉施設の運営

介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)・短期入所生活介護事業所・居宅介護支援事業所・通所介護事業所(デイサービスセンター)・養護老人ホーム・在宅介護支援センターの計一六施設(二八事業所)の運営など。また、家族・ボランティア・地域団体などと連携を取りながら、家庭的で明るく開放的な施設づくりをおこなうとともに、介護者教室・ボランティア講座などの開催もしている。

 ② 介護認定審査

各市町村へ提出された介護保険の認定申請にたいして、公平・公正で迅速な審査・判定をするために、保健・医療・福祉関係の専門家一八〇人からなる介護認定審査会を設置し、五人で一組の合議体により審査認定をおこなう。

 ③ 広城的ごみ処理対策

ごみ排出量の削減をはかり、圏域内の既存焼却施設を集約し、安全な焼却施設などの中間処理施設を整備していく。また、処理物は可能な限り再利用し、埋立て処分する量を削減するとともに、安全な管理型最終処分場の確保など広域的なごみ処理対策をすすめる。

 ④ ふるさと市町村圏計画

県都長野市を中心に、一八市町村が一体的な生活圏を形成していくための計画を作成する。

 ⑤ 広域的課題の調査研究

例としては、広域的消防・救急・救助、養護老人ホーム施設組合の統合、介護保健全般、ボランティアネットワーク、し尿処理、下水道等の汚泥処理、火葬場、幹線道路網の整備計画、図書館ネットワーク、広域的防災の対策、観光の振興などである。

 ⑥ 職員の共同研修

時代の変化や新たな行政課題に対応するため、関係市町村職員の共同研修を実施する。


写真8 社会福祉会館

 このように行政の広域化がしだいにすすむなか、平成十五年一月十五日、国の市町村合併促進政策により、長野市隣接の豊野町とはすでに任意合併協議会の発足をみ、また、戸隠・鬼無里・大岡村などからも合併の意向が出され、同年七月には任意合併協議会が発足している。