公民館と生涯学習の展開

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生涯学習という用語が登場したのは昭和四十年代であった。『教育年報』では昭和四十三年(一九六八)に生涯学習という用語を使ったという(『長野県社会教育史』五七年刊)。

 昭和五十六年(一九八一)六月には、中央教育審議会が「生涯教育について」の答申をおこない、翌五十七年五月には、県が『長野県生涯教育の推進構想』を発表した。このころ、昭和六十年度の生涯学習を中核とする長野市公民館の学習援助費は表18のとおりであった。学習援助費の主な事業は成人学校で、一一公民館、一六会場で一二八講座が開講され、全事業の六三パーセントに相当する三一二一万六〇〇〇円の予算配当がなされていた(『長野市の公民館』)。


表18 市公民館の事業別学習活動援助費 (昭和60年度)

 昭和六十三年、文部省には生涯学習局が誕生し、生涯学習への国民的関心がいっそう高まっていった。このような社会情勢を背景として長野市では、平成元年(一九八九)二月に、市生涯学習推進委員会を発足させ、市内の各界各層から二三人の委員を委嘱した。

 同年十月には、第一回長野市生涯学習市民大会(兼第二一回市公民館大会)を市民会館で開催した。大会のあいさつのなかで、大会長(市区長会長)三上邦夫は、「今日の世の中は、社会、経済、科学技術を中心として極めて早いテンポで変化をしているが、加えて、人生八〇年時代という長寿社会に入ったことにより、いまだ経験したことのない、新しい社会への対応を常にもとめられている」(『大会要項』)と述べて、生涯学習の条件整備の必要性にふれている。

 また、この大会要項「生涯学習を市民の手で推進しよう」によれば、大会スローガンをつぎのように二つあげている。

 ①教育機関を市民の学習の拠点として、生涯学習の充実をはかろう。

 ②いつでも、どこでも、だれでも楽しく学習できる条件整備につとめよう。

 大会の内容構成は、午前にパネルディスカッション「長野市生涯学習体系を考える」(金原靖子ほか三人のパネラー)を配置し、市の生涯学習体系の構築や条件整備をめぐって論議がかわされた。午後は岡本包治の基調講演「楽しく生きがいのある人生を」が聴講された。

 平成二年(一九九〇)、県は社会教育課内に生涯学習係を新設し、八月には第一回生涯学習県民のつどいを伊那市において開催した。そして、翌三年三月に市生涯学習推進委員会は「長野市の生涯学習について」の提言をおこなっている。提言は、①生涯学習社会を創造するために、②生涯学習を推進するために、③生涯学習支援・推進体制について、の三部から構成されていた。そのなかで、生涯学習の課題についてつぎのように述べている。「長野市では、成人学校の開講等学習の場を拡大するとともに、民間のカルチャーセンターが各種の講座を提供するなど一定の成果をおさめてきた。しかしながら、これらの学習内容と対象は特定の分野にかたより、はげしく移りかわる現代社会の要請にこたえ、市民の学習要求を十分に満たしているものとはいえない」と。そして、長野市の生涯学習を推進するにあたっての緊急課題としてつぎの六項目をあげている。

 ①家庭教育力の回復・活性化と補完機能の充実

 ②学習成果の社会還元・社会参加による生きがい対策

 ③冬季オリンピック開催に対応する学習活動の充実

 ④生涯学習センター(仮称)を設置し、それを頂点とする学習施設および学習体系の整備充実と活性化

 ⑤地区生涯学習推進協議会(仮称)の設置など学習参加への諸条件の整備と啓発

 ⑥生涯学習関連諸事業の実施における「たてわり」行政から総合行政への転換


写真77 中部公民館成人学校「生活の花アレンジメント」

 これにみられるように、①は家庭の教育力が低下しているという認識に立つ学習の活性化を緊急課題ととらえ、②は生きがい対策として学習の成果を社会に還元し、社会参加に連動する生涯学習とすることを意図した課題となっている。④⑤⑥は学習の環境整備と生涯学習の組織化にかかわるもので、生涯学習センターや地区生涯学習推進協議会を設置することによって施設・学習体系を整備し、市民の学習参加への諸条件を整備しようとする課題が緊急課題として設定されていた。しかし、提言では、既成の施設である図書館・博物館・美術館について述べてはいるが、市民の生きざまを記録してきた史料・文書の保存・公開が生涯学習の基底にあることの視点が欠落しており、市文書館設置については言及されていなかった。

 この提言を具体化する目的をもって、四ヵ月後の平成三年七月には三回目の長野市生涯学習市民大会(兼第二三回市公民館大会)が開催された。そこでは、「生涯にわたって、いつでも・どこでも・だれでもが、必要なときに自ら学習することができ、その成果が適正に評価される生涯学習社会の実現をはかることが必要である」(『開催要項』)との認識のもとに、市関係諸団体と行政・教育機関が一体となって、その具体的な推進上の課題を追求する市民大会としたいとの大会設定趣旨であった。主題は「生涯学習を市民の手で推進しよう」と、大会スローガンは第一回大会と全く同じに二つを設定し、「生涯学習を地域でどうすすめるか」をテーマに、パネルディスカッション(塚田市長ほかパネラー四人)のみを配置するという内容であった。この三回の生涯学習市民大会を併設して実施した公民館大会は、これ以後は開催されないで、平成四年度以降は単独の公民館大会として毎年継続された。長野市では、平成期の冒頭三年間に企画された生涯学習市民大会によって、市民の生涯学習体系の組織化と条件整備をすすめる重要な契機をつくりあげていった。


写真78 成人学校講座の「陶芸」

 その後一〇年を経て、平成十三年(二〇〇一)四月には、『長野市生涯学習基本構想・基本計画』を策定した。基本構想では「生涯学習社会の実現のための施策の基本方針を定めるもの」とし、長野市の生涯学習の方針を充実した学習、文化、スポーツ活動等によって、人生を豊かなものにしていくためとして、だれもがいつでもどこでも学習機会を得ることのできる「伸びやかに学び躍動する生涯学習のまち」を目ざす、とした。この方針に沿い、推進の目標を、①まなぶ、②ふれあう、③生かす、の三つにまとめて指針とし、平成二十二年度までの一〇年間継続実践することとした。


写真79 更北公民館の「作新大学文化芸術祭」

 このようにして活動を展開している、市の生涯学習は、さまざまな課題をかかえつつも、平成十四年六月現在、中核となる成人学校は二一会場一七五講座へと拡大してきている。さらに、県短期大学開放講座やIT講習のほかに地域で子どもを育むための子ども公民館事業(郷土料理・地区めぐり・折り紙・自然観察会など)も取りいれ、事業内容の多様化をはかっている(『長野市の公民館』)。