芋井地区には賽(さい)の神をはじめとして古い民俗習慣がよく残っている。かつては各集落ごとに観音講・庚申(こうしん)講・戸隠講・施餓鬼(せがき)などが盛んにおこなわれ、現在までつづいているところもある。施餓鬼は扁平・上中犬飼・岩戸・上ヶ屋・坂額(さかびたい)でつづけられており、観音講は新屋・百舌原(もずはら)・沢浦・鑪(たたら)・泉平でおこなわれている。また、昭和五十五年(一九八〇)の庚申年に、芋井地区ではほぼ全集落に新しい庚申塔が建てられた。
かつては山仕事の無事を祈る山の神祭りが軍足(ぐんだり)・広瀬・荒安・扇平(おおぎひら)・影山などでおこなわれ、上ヶ屋では飯綱原の朝草刈りの前に、富蔵山の掛け軸を飾って人馬の無事を祈ったという。影山の雹(ひょう)祭り・霜除(よ)け祭りは高冷地の農作物の安全な生育を願うものであり、秋の風祭り(とうせんぼう祭り)は、果樹栽培農家の多い芋井では現在でも多くの集落で実施されている。そのほか善光寺地震に抜け落ちたことを記念する荒安ののけの日祭りや、大火の日を忘れないための鑪・泉平・平の火祭りなどの災害除けの祭りもある。大池の清掃を兼ねた泉平の石尊(せきそん)講をはじめとして水神祭りは多くの集落に残っている。いずれも地域に根ざした大切な行事である。上ノ平の川流れの行事は、年貢米を納め終え、犀(さい)川を渡って帰った人馬へのねぎらいが起源だと伝えられる。
現在では秋の農協祭が地区をあげての祭りとなっている。