信里地区は山地の割合には水田が多い。平成七年(一九九五)度の水田率は四八・一パーセントと高い。灌漑用水のほとんどは溜池(ためいけ)に依存している。その水の多くは天水(てんすい)である。昭和五十八年(一九八三)信里地区溜池調査委員会の調査によれば、溜池総数四六九。溜池面積計約一一・六ヘクタール、水田面積の約一〇パーセントにあたり、県内でも特色ある地域である(界紙写真「溜池と水田」)。
溜池は所有者によって個人用と共同用にわけられる。個人用は四四二、山布施・秋古・青池・有旅・遊谷などに数多くみられる。平均一戸で二~三ヵ所もっている。その溜池面積は小さく、七四・六パーセントは三アール未満である。溜池は自分の水田の上段に築かれる。灌漑は田から田へ流すので同一所有者の水田が連らなっている。また、なかには臨時の溜池もつくっている。上段の水田を秋耕し、春早く畦(あぜ)を高くし、代かきして貯水する。その水を下の田に順にかけながら代かき用に使用し、最後に臨時に使った溜池の水田に田植えをしている。
共同溜池数は二七。おもな溜池には有旅大池(池平)・名不知(なしらず)池(名不知)・芝池(若林)・北溜池(沢)・南池(上日向)・脂田大池(若林)・長池(北原)・若林十号池(若林)・濁池(にごり)(北原)・両堀(もろほり)池(秋古)などがある。共同溜池は公平な用水分配と管理が問題である。きびしい水利慣行で運営されてきた。しかし近年は溜池・用水路の改善により漏水も少なく、休耕田が増加し用水量に余裕がでてきた。そのうえ兼業農家が増加している。山布施大池の場合も農家一〇戸で当番二人二年交替で、二日おいて三日目に関係農家の水田を巡見し、配水していた。現在は四戸に減って当番一人一年交替、水を日曜日に巡見、配水している。またなかには当番を長老や退職者に専従で依頼しているところもある。