文献と言い伝え

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過去の生活のさまざまなようすは、それを記録した史料によって明らかにされる。だが、記録されるのは生活のなかのほんの一部にすぎない。文字を用いることができる人は、古い時代になればなるほど限定されていた。そして記録される事柄も、その意図も限定されていた。そうした状態においては、変わりばえのしない日常生活は記録に残りにくかった。つまり記録によって明らかにされうるわれわれの生活文化の歴史などには、限りがあったのである。記録文書に記されていない事柄も、実際にはおこなわれていたことは、私たちが書く日記の内容を思い浮かべてみればすぐに思い当たる。

 私たちの生活のなかには文字記録によらず、ことばや行為などによって伝えられているものも多い。伝説や昔話などをはじめ、あいさつのことばや贈りものの仕方、調理の仕方や祭りや行事など、民間伝承などといわれている習慣や習わしなどがそれである。これらは日々の生活を構成し、支えながら親から子へ、子から孫へと伝えられてきたものである。時代や環境の変化のなかで少しずつ変化しながらも、個人としてではなく、生活をともにする地域社会の人びとの共通の理解によって伝えられてきた。その変化は一律のものではないが、地域内においてだいたい同じような変化をたどっているものも多い。したがってこれもまた、私たちの生活の歴史を知るための重要な資料とすることができる。