民間伝承を対象として、私たちの生活文化の実態とその歴史とを明らかにしようとするのが民俗学である。そこで取りあげられる歴史は、英雄偉人の作りあげたものではない。時代の背後にあって、営々と働きながら生活文化を築きあげてきた庶民の歴史である。その存在はときに文字に記されることはあっても、その実態はなかなか記録されがたいものであった。したがって資料は直接われわれの生活を観祭し、あるいはそこに生活する人びとから教えていただこうとする。参与観察とか、面接調査とかいうこともあるが、時と場とを共有することによって、生活文化を理解しようとするのである。
どのような環境においてどのような生活が営まれるか、なぜそのような生活が営まれるようになったのか。地域や時代によってどこが異なりどこが共通しているか。なぜそのような違いがみられるのか。人びとの作りあげてきた生活を民間伝承をとおしてもう一度見なおそうとするのである。そこに生活している人びとの体験と理解とにもとづき、それらを比較し、一つの生活文化の歴史と体系とを明らかにしようとする。日本全体のなかでの地域差や文化のあり方を明らかにしようとすることもあるし、長野市とか長野県とかというような、特定地域のなかにおける生活文化のあり方を明らかにしようとすることもある。しかし、日本という地域は、それを構成する各地域的なものと無関係ではありえないし、特定地域であってもそれが孤立しているわけではなく、周辺地域、そして日本全体とつながっている。それぞれの地域から日本の生活文化を考えるのである。