いかに科学が進歩し、生活のようすが変わっても、生命を維持し、社会を形成し、文化を生みだす営みの背後には、前代から伝えられてきた文化がある。それはまた、なんらかの形で次代に継承されるものである。そうした文化が民俗であるから、民俗を把握するということは、現在の生活や文化を見なおし、とらえなおすということである。つまり、現在生きている人びとみずからが体験してきた、あるいは体験している生活のなかに存在するのが民俗である。
その善し悪しは別にして、それがどのようなものであり、どのような意味をもっているかを確認したいという意図が、本編の基底にある。個々に記述されているものはだれでもが体験し、よく知っているものばかりであろう。そうしたごく身近にある文化を再確認する手掛かりになることができるよう、できるだけ具体的な事例を取りあげて、分かりやすい表現をもって記述しようと努めた。