種類

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行商とは商品をたずさえて一軒ごとに訪れ、販売することをいう。また、行商のなかにも戸ごとに訪れることはあまりしないで、独特の売り声をあげながら歩き、客を集めて商売するものもある。これを、振り売りという。ここでは、振り売りとは区別して、戸ごとに売り歩くものだけを行商ということとする。

 常設の店を開くには、ある程度まとまった資金が必要となるのにたいして、行商や振り売りはその日一日の仕入れの代金があればよいし、場合によってはそれすら必要なく、仕入れた商品の代金はそれを売った翌日に支払えばよいものもあった。このように行商はほとんど資金を必要としないので、才覚さえあれば、すぐにでも商売を始められるものである。そこで、現在のように車を利用して人びとの行動範囲が広がる以前は、商品をたずさえたさまざまな行商が村々を訪れたものである。

 行商には、魚や昆布・わかめ・かつおぶしなどの海産物売り、菓子・あめ売り、豆腐・しみ豆腐売り、野菜売り、果物売り、油売り、酒屋、肉屋などがあった。食べ物以外には、薬売り、衣料品売り、鎌(かま)売り、金物屋、竹細工売り、ほうき売り、ふるい売り、石油・ランプ売り、種物売り、小間物屋、障子紙売り、付け木売りなどがあった。

 行商人は村内の人の場合もあったが、近くの町や遠くの産地からやってくることもあった。鎌は古間(上水内郡信濃町)が産地でそのあたりからやってきたし、障子紙は内山紙の産地である飯山方面から売りにきた。薄く割った木の先に硫黄をつけた付け木は傍陽(そえひ)(小県郡真田町)から売りにきたし、竹細工は夜間瀬(よませ)(下高井郡山ノ内町)あたりから売りにきた。また、しみ豆腐は近辺では平穏(ひらお)(山ノ内町)や傍陽などが産地で春に売りにきたが、古森沢では平穏のものはおいしいと評判がよかった。佐久地方は鯉の産地として知られているが、三水へは六月ごろに佐久から田圃(たんぼ)へ放すコイゴ(鯉の稚魚)を売りにきた。長野県外では、新潟県からは海産物を売りにきたし、富山県からは薬を売りにきた。遠くから来る行商人は、定めた宿に泊まって商品を売り歩いたのである。