振り売りには、マゴタロウ虫売り、魚売り、あめ売り、豆腐売り、野菜売り、果物売り、とうがらし売り、納豆売り、玄米パン売り、アイスキャンデー売り、こんにゃく売り、焼芋売り、瀬戸物売り、ランプ売り、金魚売り、コイゴ(鯉子)売り、初音売りなどがあった。マゴタロウ虫は、ヘビトンボの幼虫で、こどものカンの薬として売りにきた。初音は小鳥の声を真似(まね)た竹笛で、年取りの夜にだけ売りにきた。いずれも特有の節回しの呼び声で、客を集めたのである。
これらの振り売りのなかでも広い地域にわたって訪れているのは、あめ売りである。桜枝町では、あめ屋がラッパを吹きながら来た。かついできた鍋(なべ)のなかに溶けているあめをおがら(麻の皮をはいだ茎)の先につけ、吹いてものの形に作ったあめ細工を売り歩いた。また、浅い桶(おけ)のまわりに旗をつけて頭にのせ、太鼓をたたきながらぶっかきあめを売り歩く人も来た。また、栗田では、たらいのような桶のなかにハタアメというあめを入れて頭にのせ、「あめのなかからキンタサンとオタサンがとんで出たよ チョッキンチョッキン」と歌いながら、太鼓をたたいてきた。長谷へも太鼓をたたいて歌を歌いながらあめ屋が来ている。
こうした太鼓をたたくあめ屋のほかに、朝鮮あめというものがあった。戸部では、昭和十年(一九三五)ごろまで、春から秋にかけて朝鮮あめを売りにきた。「アメー アメー」とよびながら、車につけた屋台のかんなの刃と金づちを打ちあわせて鳴らしながら、売り歩いた。また、岡田でも、かんなの刃と金づちを打ちあわせて音を出し、「ヨボ アメサラ アメサラ」といいながら、売りにきた。朝鮮あめの場合には、かんなの刃と金づちで音を出しながらよびかけるところに特徴があった。