振り売りの口上

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振り売りにはそれぞれ独特な口上があった。七色とうがらしは「ナナイロトーガラシー」といってきたし、納豆屋は「ナットー ナットー」、あるいは「ナットー ナットー イトヒキナットー」などといいながら、主として冬にきたところが多い。また、金魚売りは「キンギョー キンギョー」といいながら、天秤棒で金魚を入れた桶をかついで売りにきた。鯉の稚魚は「コイコー コイゴー」とか「コイッコ コイッコー」などといって売り歩いた。アイスキャンデーは「キャンデー キャンデ」といったし、氷屋は「エーコーリ コーリ」、まんじゅう売りは「マンジュー マンジュー」といってきた。これらはいずれも、売りたい商品名に節をつけて連呼しただけのものである。

 こうした単純な口上以外に、お客の興味をひこうと工夫したものもあった。たとえば、玄米パンは「玄米パンのホヤホヤー」とよびながら売り歩いた。栗田では、こんにゃく売りが「初霜やニの字ニの字の下駄の跡」「初雪やねこの足跡梅の花」などと歌いながら売りにきた。戸部では「鉢に紅鉢に吸い口に 片口の御用はありませんか」といいながら、瀬戸物を売りにきた。小市では、昭和三十年(一九五五)ごろまで茶碗(ちゃわん)屋が春から秋にかけて茶碗をたたいて音を出し、大声で客を寄せて売った。マゴタロウ虫は「奥州仙台のマゴタロウ虫 こども衆にはカンの妙薬」といって売りにきた。また、豆腐屋はラッパを鳴らして売りにきた。

 かつてはかついできた振り売りも、今ではトラックでやってきて、スピーカーで客を集めている。赤沼では、新潟県長岡市からトラックですいかを売りにくる。音楽を流して「すいか すいか 平均一個○○円」といいながら、夏にくる。魚屋もトラックできて音楽を流し「新しい魚 新鮮な魚 どなたもお早くおいでください」といって、春と秋に売りにくる。