振り売りには、時期を問わずに年中売りにくるものもあったが、ある特定の季節にだけ売りにくるものもあった。そして、宣伝のための呼び声をともなっていることから、その声が風物詩となった。たとえば、金魚は初夏に売りにきたが、これがくると夏だと感じさせられた。アイスキャンデーや氷は盛夏に売りにきたから、真夏を伝える呼び声たった。また、焼芋屋が笛をならしたり、「ヤキイモー ヤキイモー」などといって売りにくるのは、冬である。
季節というより、ある時間を感じさせるのが初音売りであった。南長池では、初音売りが「ハツネー ハツネー」とよびながら、竹笛を吹いて元旦(がんたん)の早朝に売りにきた。入組(松代町西条)や太田でも、昭和四十年代ごろまでは年取りの夜から元旦の早朝にかけて、初音売りがきた。初音のピーといううぐいすの鳴き声のような音や、初音売りの売り声から新年になったことが感じられたのである。