田の耕起作業を、タオコシ・タアブチなどという。耕起は二回おこなわれるのが一般的である。一回目の耕起をタオコシとよぶのにたいして、二回目の耕起をナカグレといって区別する場合もある。
タオコシ(一回目の耕起)は積雪期を除く晩秋から四月にかけておこなわれる。たいていは春雪解けを待っておこなうことが多い。また、ナカグレ(二回目の耕起)は五月中ごろから三週間ほどかけておこなった。タオコシは刈り取ったあとの田に残る稲株を掘り起こす作業であるのにたいして、ナカグレはそうして起こした大きな土の固まりを砕いてこまかくすることに主眼がある。
多くの家では、タオコシやナカグレといった耕起作業は、ビッチョ(備中鍬(びっちゅうぐわ))とよぶ三本鍬を用いての手作業であった。三尺ほどの幅でひと鍬ずつ田の土を掘り起こしていくもので大変な労力を必要とした。
それにたいして、牛馬を飼う家では、田の耕起に牛馬を利用した。牛馬に犂(すき)を引かせておこなうものであるが、里では牛馬を飼う家はむしろ少数であった。
そのため、牛馬を使った犂耕(すきこう)は、山間地の人に請け負わせることも多かった。山間地では牛馬を多く飼っていたため、そうした人に頼んで田の耕起をしてもらう。頼むときには、何軒かで組を作ってよんだ。そのなかの一軒を宿に決め、そこに馬方と馬が泊まりこんで、その組の田を耕起して回った。こうした馬方は市域の西山のほか遠く鬼無里・戸隠方面からもやってきた。