里では四月から五月にかけて苗代の準備を始める。かつては水苗代がおもであった。ナエマ(苗間)はその家でもっとも水の便のよい田を選んで作った。なお、山からの水が直接入るところや湧水を使っているところでは、水を温めるための温水施設が必要なところもあった。
苗間を作るには、まず田の土を耕起したあと、十分にクレハタキ(クレンヅチ)で土塊をたたいて土をこまかくしてから、そこを短冊に区画して床(とこ)を作る。
そうして、苗間の床ができると、スジマキ(種まき)をおこなう。スジマキの日取りは田植え日を基準に決める。田植え日から数えて五〇日前を目安にしてスジマキすることが多い。
スジ(籾種(もみだね))は苗間にばら蒔きにしてから、壁塗りのこてのようなものできれいに床に擦りこむ。すずめが籾をほじくるので、苗がある程度大きくなるまで苗間のスズメオイが必要である。これはもっぱらこどもの仕事とされた。
苗間のスジマキが終わると、家ごとでスジマキイワイをおこなった。そのためスジマキイワイの日時は家ごとで異なる。スジマキイワイには、ぼた餅や赤飯を作ったり、赤飯を蒸し、餅(もち)をついたりした。ただし、こうした儀礼をおこなわない家も多い。
なお、多くの場合、苗間は苗取り後すぐにシロカキして田植えをした。