イエには初代の先祖がおり、その後イエを継承してきた先祖がいる。初代の先祖をとくに御先祖様という場合もある。一般に盆などに迎えるときにはホトケサマとよばれることが多い。
家を継いだもの(本節では以下「家長」と表記する)はそれらの先祖を祭祀(さいし)していかなければならない。もちろん祭祀は家長だけでおこなうわけではなく、盆などには、イエを離れて暮らしているこどもたちも帰省してイエとしての祭祀集団に加わる。しかし、先祖をまつる仏壇や墓を管理していくのは家を継いだ家長のつとめとされている。屋内の仏壇には、先祖の位牌(いはい)が置かれ、水や花などが常に供えられる。ていねいなイエでは毎朝晩線香をあげて供養する。毎年、盆には盆棚が作られ、位牌が移されてさまざまな供物(くもつ)が供えられる。先祖のホトケサマの迎え送りには、カンバとよばれる白樺の皮を焚くところが市域に広くみられる。また先祖はふだんは墓に宿っていると考えている人も多く、盆前には墓掃除をおこない、その後盆の迎え・送りの墓参りをする。そのほか、正月、彼岸などにも墓参りがおこなわれる。
寺院でも盆には施餓鬼会(せがきえ)がおこなわれ、新盆供養のほか、先祖の永代供養もおこなわれる。寺院には護持費として付け届けをするが、これもホトケの供養のためである。祥月命日(しょうつきめいにち)には寺の僧侶(そうりょ)に供養の読経(どきょう)をしてもらうイエも多く、若槻地区などでは庵主(あんじゅ)さんとよばれる地区の尼さんに頼むイエも多い。
屋敷神や本・分家集団でまつる神社においても、先祖をまつったとされる例がいくつかみられる。屋敷神は、先祖をまつったものではなくとも、先祖がまつった神であり、イエの神としてまつっているので、祭主となって管理していくのは家長である。本・分家あるいはマキやウチワでまつる神社も、祭主は本家の家長がつとめることが多い。
このようにイエにはイエを維持してきた先祖かおり、仏壇や墓・寺・屋敷神などの祭祀をつかさどることによってその先祖をまつっていくことが家長の役割と考えられてきた。