結婚した女性は早くこどもが授かるように、地域内にある氏神さまや子授けの石、男女の性器の形をした石などに祈ることが多くおこなわれた。とりわけ、一月十四日から十五日にかけての小正月には、道祖神の祭りの折に子宝や縁結びを願い、ぬるでや松・藁(わら)などで男女の人形や男根の形をしたツクリモノをつくるところがある。上深沢(小田切塩生(しょうぶ))では各家から集めた正月の松飾りのうち形のよい枝を選び、嫁・婿(むこ)・仲人・荷担(かつ)ぎとよばれる婚礼のようすをまねた人形と男根の形をした御神体をつくり、道祖神碑の前に供えて縁結びと子宝などの祈願をする。また、見六(みろく)(篠ノ井)では新婚の嫁が男根の形をした木製のドウロクジンをもち、ドンドヤキの火であぶって子宝を願う。なかには、平(篠ノ井塩崎)・越(同)のように男女の性器を誇張した大きな藁人形をつくり、ドンドヤキで燃やして厄よけとともに子宝を祈願するところもある。
嫁が妊娠してこどもを身ごもると、身持ち、身重、空身ではない、などといわれる。田子(たこ)(若槻)では妊娠したことをまず夫に話したが、よそから姑(しゅうとめ)の耳に入ると姑と嫁のあいだがぎくしゃくしてしまうためすぐに姑にも告げた。また、戸部(川中島町)では初産のときは生家の女親から姑や仲人に伝えたが、つぎの妊娠からは嫁が姑に直接話した。姑に伝えなかったりすると、家では面倒をみないなどといわれるため、戌(いぬ)の日に生家の女親が手土産をもってお願いにいくこともあった。
妊娠を知らせるときには、「ボコができたのでお願い申しあげます」、「身重になったようですがよろしくお願いします」と生家の親や嫁がお願いし、姑は「身体に気をつけていい子を生むようにしてくれ」という。田子では、嫁の生家に妊娠の知らせがあると、日を改めてエプロンや菓子などの贈り物をもって「よろしくお願いします」と姑にあいさつにいった。こうしたあいさつがあってから嫁の妊娠が認められたことになった。