死者を棺に納める前に湯灌(ゆかん)をする。水に湯を入れた逆さ水を使って、配偶者やこども、兄弟など死者のごく近親のものが死者の体を清めるのである。西平では左手で左前に水をかけて湯灌をした。死者が女性の場合には、このとき同時に化粧なども施す。
湯灌が終わると死者には経帷子(きょうかたびら)を着せ、近親者の手によって棺に納める。これを納棺という。このときには生前好んでいた着物や、美しい着物を左前に着せることもある。田子では死者の着物を「北向きにかけろ」という。また「前後反対に干せ」といい、洗って干したあと、ふたたび家のものが着ることもあった。納棺は葬儀の日の朝におこなわれることが多い。棺のなかには眼鏡やたばこなど、死者の生前の愛用品や好物だった品物を入れてやる。このほか、極楽までの道中に使う草履やつえを入れたりする。また戸部や松代町中町などでは緒を切つた草履を棺のなかにいっしょに入れたといい、花立では善光寺の戒壇巡りのときに履いた草履があれば、それを棺のなかにいっしょに入れるという。
そのほか、棺のなかには数珠(じゅず)・六文銭・こぬか・藁などを入れる。松岡では穴の空いた一文銭六枚を数珠のように糸に通して入れる。これは死出の旅に出て極楽に着くまでの途中に関所が六ヵ所あり、それぞれに一枚ずつ置いていくからだという。三水では、こぬかは死者が三途(さんず)の川を渡るときに、犬やおおかみにあたえることによって、厄介者がつかずに無事極楽浄土に行けるようにするためであるといっている。長谷では棺のなかに藁を三把(ば)入れるという。さらに、死者が女性の場合は、針と糸などの裁縫道具や、くしを入れるというところも少なくない。また、善光寺から受けてきたお血脈(けちみゃく)を入れるところもある。
出棺の前には僧侶によるお髪剃(そ)りがおこなわれ、読経がなされる。芹田や田子などでは、近親者が棺のふたに釘を打つときには石を使った。
湯灌や納棺をする人びとは着物を左前に着て荒縄で縛ったり、主に左手を使ったりしたというところが多い。納棺のときにはふんどしだけの裸姿になるか、あるいは上半身肌脱ぎになっておこなったというところもある。また中沢では左そでを破ったというし、三水では素足にわらじを履いて納棺をしたという。