日本の風土はしばしば「山島」にたとえられる。しかし、そうした日本列島には思いのほか多くの人びとが暮らしている。大きな視点に立って眺めると、単なる山島にすぎない日本列島に、なぜこれほど多くの人が暮らすようになったのか。そうしたことを考えるとき、山間に点在する盆地の存在に注目する必要がある。そうした山間の盆地に暮らす人びとが自分たちの住む地域をいかにとらえているのか、いいかえればかれらの民俗空間はいかなるものなのかを明らかにすることは、長野のような内陸地に限らず日本の風土を理解するうえで有意義なことである。
ここにいう風土とは、単に自然環境を意味することばではない。自然と人間との相互の関係を示すものである。それは、わたくしたち日本人の感性をとおしてみたときの自然のあり方、つまり日本人の自然観と密接にかかわってくることである。
風土をそのように考えるなら、長野盆地に暮らす人びとが自分たちを取り巻く自然をいかに認識し、またそれを利用してきたのかということを明らかにすることによって、長野盆地の風土は理解されるであろう。そのような視点に立って、ここでは長野盆地の風土に迫ってみたい。
なお、ここでは、より視覚的に長野の風土を理解するために、長野市内三四〇ヵ所を対象にしたアンケート調査および市内各所でおこなった聞き取り調査の成果をもとにして描いた民俗地図を用いて本論を進めることにする。