焼ける大地

325 ~ 327

山の水田は近くに用水源となるような川がないことも多く、水は不足がちである。そのため昔からため池を作ったり、デスイ(出水)などとよぶ湧き水を用いたり、また、ときには天水に依存する水田も存在した。前掲図2-3に示したように、山では絶対的な用水源が存在せず、河川・ため池・湧き水・天水などさまざまなものに用水源を求める。平では河川を中心としたセギによる用水路網にほぼ用水源が単一化していることとは対照的である。

 そうした姿を篠ノ井の山間地にある犬石にみてみることにしよう。犬石ではかつて代かきなどのように一時的に多くの水を必要とするときには、雨水を頼りにすることが多かった。そうした時期になると、大雨が降ると大あわてで田の排水口を止めて水田のなかにたまった雨水を逃がさないようにしてから、その水を使って水田のこしらえをした。以前は、雨が降らないと水田にならないところが犬石にはだいぶあったという。

 また、犬石には個人で作る小規模な池がたくさんある。平均すると、一軒当たり三ヵ所の池をもっている。多い人だと七ヵ所もあるというが、所有する水田の面積に比例して池の数も増える傾向にある。こうした個人で作る小規模なため池の場合、一〇年に一度ずつくらいの割りで作り直さなくてはならない。また、そうした作り直しのとき、水田と池とが入れ替わることもある。池は地形的にみて水のたまりやすいところに作られるが、傷んで十分にため池として機能しなくなると、そこを水田に戻して、他の場所のやはり水のたまりやすい水田を新たにため池に作りかえた。

 また、このほか犬石には他の村々と共同管理する有旅(うたび)大池のような大規模なため池も存在した。こうしたところの水は水利組合により管理されている。

 このように、犬石は焼け地で水が不足気味な土地であるため、水不足にたいしては、井戸を掘るというような現実的な対処の仕方のほかに、神仏に祈るというような超自然的存在への働きかけをおこなうことにより、水の恵みを得ようとする努力もおこなわれてきた。そのひとつが雨乞(あまご)いである。犬石にはいくつもの雨乞いのやり方が伝わっている。

① 長年寺の薬師さんと寺の地蔵(水地蔵ともぬれ地蔵ともよばれる)とを抱き合わせて荒縄でがんじからめに縛り、それを弁天井戸(別名長者の井戸)に沈める。

② 氏神の中山神社へろうそくをもってアマンゴエのお参りにいく。

③ 蓑笠を身に着けて聖(ひじり)池にいき、その水を濁す。

④ 戸隠の九頭龍(くずりゅう)権現へ行って祈願する。