山の沢水は冷たく、稲の生育によくない。そうした山に多くみられる冷水掛かりの水田をとくにヒエダ(冷田)とよんだ。そうした水田にはヒエヨケ(冷よけ)とよぶ水温を上げるための装置が必要であった。図2-11に示すように、ヒエヨケにはいくつかの方法があった。
もっとも一般的なものとしてはため池がヒエヨケの役割を果たしている。明確にヒエヨケの機能を意識していない場合も多いが、結果的には沢水などの冷水はいったんため池に蓄えられることにより、太陽の日が当たる時間が増え、水は温められることになる。また、マワシミズといって冷水が直接水田のなかに入ることなく、水田の周りを回ってから入るように工夫するものもある。さらに、まだ寒い春先に準備しなくてはならない苗代の場合は、冷水をいったんとめて、水温を上げるためのヌルメとよぶ場所をわざわざ水田のなかに造ったところもある。
また、冷田には冷水に強いとされるもち(糯)種を植えたり、ときには冷水が直接当たる水口の部分にだけ糯種を植える場合もあった。さらに、そうした糯も植えられないところには稗(ひえ)が植えられた。
デスイ(出水)が多い水田も水が冷たい。またそうした水田はドブッタ・ヒドロッタ・ヌカリッタなどとよぶ湿田になっていることが多い。そのため出水の湧く水田には水田のハバ(畦畔)に沿ってテセギとよぶ排水溝を掘り、水が水田のなかにたまらないように工夫した。多くの場合、出水は水田のなかでもハバのあたりから湧くので、テセギによる排水は比較的容易であった。また、出水といってもそれほど量の多くない限りは、テセギは常設せず稲刈り前になって簡単なものを掘ればよかった。