山と平とはそれぞれに違った風土をもちながら、同時に両者は密接な関係をもって、総体として長野盆地の民俗空間を形成していた。
そうした両者の密接な関係を、ソウトメ慣行とタアブチ・タアカキ慣行のなかにみることができる。ひとことでいえば、ソウトメとは早乙女(さおとめ)つまり田植えの請負代行のことである。また、タアブチ・タアカキは牛馬を利用した田起こし・代かきの請負代行のことである。ともに山の人びとによりおこなわれるが、早乙女には主として女が、タアブチ・タアカキには男があたった。平の農家では伝統的に西山の人びとをタアブチ・タアカキや早乙女として雇っていた。
図2-14は、早乙女を迎えたところと早乙女に行ったところ、および行きもしたし迎えもしたところの分布を示している。図2-15も同様にタアブチ・タアカキの場合を示している。明らかに早乙女やタアブチ・タアカキに行ったとする地域は山に、そうした人たちを迎えたところが平にそれぞれ対応していることがわかる。
山の村では自分の家の田植えが終わると田の草取りをおこなうまでの期間を利用して、早乙女や夕アブチ・タアカキとして善光寺平や川中島平に行った。基本的なあり方としては、善光寺平を北西部から南東部へ、つまり田植え時期の早いところから遅いところへと順に回る。その期間は、長いときには三週間にもおよんだ。