繰りかえされる時間

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しかし、時間はただ一直線に流れ去るだけのものであろうか。よく観察してみると私たちの日常生活のなかにはもう一つの時間が存在しているようである。ある時期になると私たちは口々に「新年あけましておめでとうございます」といいあう。「新年」とはいうまでもなく新しい年のことである。このときに古い年から新しい年になるのである。これは一定の期間をへて何度でも繰りかえされる。ここにみられる時間は流れ去る時間ではなく、繰りかえされる時間である。その繰りかえされる時間の長さは一年であり、前の年と同じ暦時が訪れると、同じような行事がおこなわれる。この行事をふつう年中行事とよんでいる。それは自然の推移と密接に結びついた時間である。

 もちろん繰りかえされる時間の長さは一年だけであるとは限らない。一日、一週間、一ヵ月などという単位で繰りかえされるものもある。毎朝仏壇や神棚にお参りしたり、七日目ごとに休日が訪れたり、「おついたち」と十五日には変わりもの(ごちそう)を作ったり、仏の立ち日(亡くなった日にち)にはオジサイ(御持斎)をしたりなどというのはそれである。繰りかえされる時間が一年を越えるものもないわけではない。善光寺の御開帳は七年目ごとであるし、松代の祝(ほうり)神社の御柱(おんばしら)行事も七年目ごとにおこなわれる。このような繰りかえされる時間のなかで、私たちの生活のもっとも基本になっているのが一年なのである。年中行事を目安にして私たちの生活は組み立てられているといってもよい。