オイヌシは御飯を何升炊くかを決め、自分で米を量ることもある。また、トリマワシになにを用意するか献立を作り、メモに書いて台所の壁にはっておく。そして、食材をどのような形に切り、器にどのように盛りつけるかなど見本を作り、他のものはそれを見ながら作業をすすめる。汁ものや煮物の味付けもオイヌシの重要な役目である。お斎の料理に限らず、亡くなった晩以降の毎回の食事、ブクバライの料理、火葬場へもっていく食べものもすべてオイヌシの采配(さいはい)のもとに用意される。また、葬儀を出したあとも一周忌まではオイヌシの世話になることが多い。
この集落では喪家の女性が台所に入ることもあるが、弔問客へのあいさつや雑用などに忙殺され、料理に手を出しておれず、オイヌシに任せる部分が大きい。オイヌシは喪家に泊まることはほとんどないが、前日、夜遅くまで片付けものをしてから帰宅したとしても、翌朝、一番に駆けつけ、朝五時半ごろから喪家で働きはじめるということもある。
しかし、ほんらい、オイヌシは多少は手も出すものの、自分で動かず座って「おまえ……してくれや」と指示しながら全体に手落ちがないように目配りするのが仕事であった。オイヌシがしっかりしていないと台所仕事をしているオカッテの人たちは困る。性格的に向き不向きというのもあるが、その仕事に慣れていない場合にはしっかりした補佐役をつけることもある。
葬儀のほかにオイヌシに世話になるのは、婚礼、初子の節供(せっく)、初孫の誕生前におこなう孫祝いなどであるが、お中元やお歳暮などの改まった形で礼をすることはなく、世話になったつど品物をもって礼にいくくらいである。
こうしてみると、この集落では葬儀の食はオイヌシを要(かなめ)とするウチワの女性たちによって支えられてきたということができる。