まず、長野市内の職人の概要を把握するために、『長野県の諸職』(長野県教育委員会編、平成二年)に登載された長野県下の職種をみていくことにする。
『長野県の諸職』では、県下に伝承されてきた伝統的製作・加工関係の職種や技術を対象として、木竹工・漆工・建築・和紙・染織・食品・陶磁・金工・玉石工・その他の計一〇種類の分野に分け、それぞれの分野から合計一五二件の職種を取りあげ、調査報告をおこなっている。このなかで長野市内からは、木竹工の分野から碁盤とわら馬、染織の分野から松代紬(つむぎ)、陶磁の分野から松代焼、その他の分野からは、ガラス細工、鯉(こい)のぼり、花火を取りあげ、計七種類の職種をあげている。報告書ではほかに、門前町としての長野の特色として僧侶(そうりょ)の法衣(ほうえ)を作る職人の存在をあげている。
このうち、ガラス細工は、明治中期に新潟県のガラス職人が天然ガスを燃料としてランプのホヤの製造を始めたのが始まりであるといわれており、その技術を取得した職人が長野に移って始めたものであるという。また鯉のぼりは、大正時代に東京に出稼ぎに行った青年たちが技術を取得して長野市内で始めたもので、農閑期の農家の副業としておこなわれたものである。
これらの技術は長野市内で独自に伝承されたものだけでなく、他からもたらされたものが歳月をへて、現在まで伝承されたものとして取りあげられているものである。しかし、長野市内には、こうした技術のほかにも、人びとの日常生活にかかわる数多くの職種にたずさわる職人が存在した。