現在は、前述のような伝統的手工業者のほかに、さまざまな「手に職をもった人たち」を職人と取りあげることがある。
長野市では、「卓越した技能により産業の発展に貢献したものを、技能功労者として表彰し、技能尊重機運の醸成を図る」目的から、昭和五十四年度に「長野市技能功労者」という表彰制度を制定している(『長野市労政概要』)。この技能功労者の条件は、市内に住所があり、主として市内で同一業種に三〇年以上の経験を有し、年齢満六〇歳以上のものと定められている。
表2-6は、技能功労者として長野市から表彰されている職業と、その職業を選出するための業種である。ここでは、同じ手仕事という意味で、配管工や電気工事、タイルエ、ボイラー技師など現代的な職業が含まれている。つまり従来の伝統的手工業にたずさわる技術をもった職人の存在に加え、近・現代的な生産・製造・加工などの仕事にたずさわる技術をもった職人たちの存在が認められているのである。また、従来は手作業で仕事をこなしてきた職人たちも、時代の変化とともにそれぞれの技術に磨きをかけつつ改良を加え、従来の手仕事の一部に機械を導入している場合も多い。
伝統的手工業者を職人と定義した場合、印刷・製本などの近代以降に発達した産業で使用された技術で、その技術の機械化にともなって、現在では必要とされなくなっているような場合でも、そうした技術をもっていた人びとの存在は、職人としてとらえていいであろう。たとえば、活版印刷の活字を拾う仕事は、印刷技術の進歩にともなって、現在ではほとんどみられなくなっているものであるが、これも一つの手工業であり、職人の勘と技が求められた仕事だったのである。
現在では、伝統的な諸職は衰退しつつあるが、一部では、伝統的な技術の希少性から美術品や芸術品・工芸品としての価値をもつ製品を作る職人もいる。また、積極的な機械の導入や技術革新によって、従来の伝統的な職人から現代的な職人に変化している職種もみられる。