元善町には院・坊があるばかりではない。それ以外にも、商店やふつうの家も存在する。そうした家々と善光寺との関係はどうかといえば、商店の多くは土産(みやげ)物店であり、善光寺への参拝客を相手に商売をしていることからいえば、密接に関係しているとみることができるかもしれない。しかし、そうした地域の人びとあるいは地域の代表者が、直接的に善光寺と結びつく機会はない。善光寺の地域社会との結びつきをあえてあげるならば、善光寺信徒会ぐらいのものである。
善光寺信徒会は、その会則によれば、「善光寺如来を尊すうし、善光寺興隆及(および)仏徳の宣揚に務むるものとする」ことを目的とし、事業としては「互に同信同行の拡大強化を計り、共に相携えて善光寺諸事業に物心両面に渉(わた)り協力外護(げご)に任ずるもの」としている。そして、会員の特典としてはつぎのようなことを定めている。
一 会員には会員章を交付する
一 会員には門標を交付する
一 会員には信徒会袈裟(けさ)を交付しその佩用(はいよう)を許可する
一 会員が会員章を提示し本堂内陣参拝、大勧進・大本願宝物館拝観するときは無料とする
一 春秋二回(彼岸中)会員の各家先亡の回向(えこう)並に現存親族の平安を祈祷(きとう)する
一 会員が十年二十年間相続したときは表彰する
一 会員本人又は家族にご不幸のあった際は御供物(くもつ)を贈る他本堂骨開帳(こつがいちょう)を無料とする
要するに信徒会会員に限って善光寺への出入りに特典をあたえ、寺の諸事業を物心両面で支えてもらおうとするもので、通常の寺院の檀家会にあたるものであることがわかる。
Aさんは信徒会に入って二〇年になる。信徒会に入ったきっかけは、たまたま遊びにいっていた家に信徒会の集金がきたので、自分も入れてくれと頼んで会費を払ってなったという。会員には年額八〇〇円の会費さえ払えばなれる。数年前からは世話人を任されてやっている。世話人の主な仕事は、その地区の会員から会費を集めることである。Aさんの住んでいる地区は四〇〇戸あるが、信徒会に入っているのは四〇人ほどしかない。会員はだいたい昔からここに住んでいた家の人たちで、新しく住人になった人は入らないという。信徒会では春秋の彼岸に総会を開き、物故者の法要をおこなっている。Aさんは一五年ほど前、くも膜下出血で療養しているときに、運動がわりに毎朝善光寺へお参りにいったのがきっかけとなり、以来毎朝早くお参りして参道に並び、お朝事のために本堂へやってくる大勧進の住職に数珠(じゅず)で頭をなでてもらう「お数珠頂戴」をし、お茶飲み場でお茶飲み話をして帰る。毎朝お参りする常連は二、三十人ほどで、そのうちいつも会う仲間は七人ばかりだという。常連はお数珠をいただくために並ぶ参道の場所が決まっている。お茶を飲むのもこの仲間であり、いずれも東和田・西長野・箱清水など善光寺の近くの人びとである。この人たちとは、朝の善光寺でのおつきあいだけで、昼間は電話することもないという。