ボーダーレスの時代に

508 ~ 510

現代はボーダーレスの時代、境界を失いつつある時代だといわれる。人びとにそのまま受け入れられる共通の価値観が失われ、何につけてもどっちつかずの状態がつづいている。日常のなかで聖と俗、ハレとケの区別が本当にはっきりしなくなってきている。世の中全体が善光寺化しているといってもよいだろう。こんな時代では、逆に極度に聖性を装って俗世間との縁を断ち切ろうとする宗教の萌芽(ほうが)と、それを受け入れようとする人びとの危ない動きも感じられる。

 そんな時代だからこそ、善光寺が境界領域に存在しつづけてきたといっても、俗世での弱者こそがここでは救われるというのが如来の仰せであると、俗世の負をそのまま丸ごと聖世界の正に転化してしまう仕掛けと強さをもっていたこと、そして今もそうした力があれだけの参詣者を集めているに違いないことを、将来に向けて真摯(しんし)に受けとめていきたい。


写真2-58 善光寺参詣者(平成9年)