長野駅からそう遠くないところに位置するX小学校の昭和五十二、三年(一九七七、七八)ごろのPTAの会合におけるようすである。各年度の始めと終わりに役員の選出と交替があり、年度初めに教職員の歓送迎会と新旧役員の慰労会が催された。講堂でPTA総会をおこなったあと、簡単な肴を仕出屋から取り寄せ酒宴が開かれた。宴に出席するのは、学校の教職員とPTAの新旧の役員だが、役員にはいろいろな役があり中心になって出席するのは各クラスの正副会長である。学校全体のPTA会長は、六年生の父母のなかから選ばれるのが通例で、副会長・会計などは六年生と五年生の父母のなかから選出される。宴会ではPTA会長と副会長が校長や教頭、異動のあった先生などといっしょに座り、他の役員は学年ごとにまとまって担任の先生などを中心にして座る。
司会は教頭あるいは六年の学年主任などがおこない、校長のあいさつ、PTA会長のあいさつなどのあと、乾杯があり、しばし歓談する。二、三十分もしたころ六年生の学年主任から、正副PTA会長、会計の三役と校長・教頭に「お杯」を差し上げたい旨の提案があり、六年の役員が人数分指名されて杯を差し上げる。謡は先生のなかにできる人がいて出した。また、返杯はそれぞれの相手に返し、その場で杯を干して終わった。この杯事は宴会が始まって割合早い時期におこなわれたので、杯が終わって立つ人もいたがその数は少なく、しばらくして万歳をして散会した。X小学校のPTAには地つきの者もいたが転勤者も多く、その割合は半々ぐらいだったので、PTAの役員のなかにも北信流という杯事を知らない人もいて、杯事がどういう意味でおこなわれたのかよく理解していない人が多かったように思われた。