松代町などでは、区の会議などのときにも北信流の杯事をおこなう。お杯の発声をするのはたいてい決まっていて、だれがだれに杯を差し上げ、だれがお肴を出すということは、自然にあの人と思われる人のところにいく。松代町では観世流が多く、伊勢町だけでも一〇人ぐらいのゴッシャン(お師匠さん)がいる。ゴッシャンはそれぞれ節回しなどに多少の違いがあるというが、素人が聞いてもどこがどう違うのかよく分からない。素人は宴会のときなどにちょっとうたえる小謡などを習いたいが、ゴッシャンは礼儀作法からしっかり教え、「羽衣(はごろも)」なら「羽衣」を最初から最後まで覚えさせようとするので、習っているほうは上達しないうちに嫌になってやめてしまうことが多い。だから人のあとについてうたうことはできても、一人で自信をもって人前でうたえるという人は現在は少ない。
長野市の区長会などでも北信流の杯事をおこなうが、長年区長会に出席しているような人が発議をする。そういう人は謡にも自信がある。