北信流をなぜおこなうのかという問いに、「宴席の決まりがついてよい」と答える人が意外に多いが、これは冠婚葬祭以外のときにおこなわれる北信流についていっているのではないかと思われる。結婚式、葬式、法事など、どこの家でも何年かに一度は大勢の親戚(しんせき)・縁者が集まる人寄せをする。そして人寄せをおこなうからには、集まった人びとからいい集まりだったと思われるような集まりにしたいと思う。和やかであってもくだけすぎず、品格が感じられても肩の凝らない宴は、だれもが理想とするところである。
冠婚葬祭の場合はとくに形式が重視される。そこでおこなわれる北信流は、宴席の品格を保ちつつ、流れを作らなければならない。したがって、お杯を提案するタイミングも大切で、宴のここぞと思われるところで声を掛けねばならず、そのタイミングがずれると、宴席がしまりのないものになってしまう。
そのため、客側から提案のない場合は、亭主役が主客あるいは次客ぐらいの客にお杯の提案をしてくれるように耳打ちする。したがって、亭主役は宴席の流れを心得ている人でなければならないと同時に、列席者の上下関係や、当家とそれぞれの客との関係もよく理解していなければできないことになる。そうなると、当家のことをよく知っているのは、本家や分家などごく親しい家の当主ということになり、たいていは本家や分家で相互に亭主役をつとめあうのが一般的である。儀礼をおこなう家の親戚関係や、人と人との上下関係などをよく熟知しているためと思われる。