妖怪の出現

648 ~ 649

かつては村はずれや村の外などで、日が暮れたころになるときつねにだまされることがあった。犬石(篠ノ井有旅(うたび))では隣の集落にいく登り道で、きつねが一晩中ほら貝を吹いていたとか、長者窪(ちょうじゃくぼ)の上のサンビャクヤマはきつねが出て化かすから、夜遅くに通ってはいけないなどといわれた。赤柴(あかしば)(松代町豊栄)でも、キツネビがつくことがあった。火が遠くに見えるときには、きつねがそばにいるのだから早く家に入れ、いつまでも見ているときつねに化かされるぞとおとなたちに脅かされ、こどもたちはあわてて家のなかに逃げこんだものだという。

 岩野(松代町)でも、夜道で見れば見るほど大きくなる和尚さんに会った人があり、恐ろしくて逃げ帰ったという。こういう化け方をするのはたぬきだという。また、昼でも不気味な天狗(てんぐ)山で、足袋屋がニタニタと笑っている大入道と出会った。足袋屋は、ほうほうのていで逃げ帰り、気がおかしくなってしまったという。天狗山のむじなのいたずらだなどともいった。

 また、村の三差路(さんさろ)の庚申(こうしん)様があるところを夜ふけに通ると、サクサクと小豆をとぐ音がすることがあった。気味が悪くて一目散に逃げると音は消え、あとにはささの葉のそよぐ音ばかりだったという。