このように、大型のものを作るとなると地区の共同作業でなければ成りたたないが、いっぽうで、各家で作るようなぬるでや松を使った小さな人形でも村の人たちが集まって作るところもある。それらは裾花川流域に多くみられる。大型の人形は小正月の火で焼いてしまうが、小さな人形作りは小正月の火祭りと並行しておこなわれ、道祖神碑に供えられる。
日方(ひなた)(小田切塩生(しょうぶ))は裾花川沿いの山間地に位置する四戸の集落である。一月十五日になると公民館に集まり、婚礼になぞらえて名づけられた嫁とモコ一対、仲人一対、子守り一対、道案内一体、お取り持ち一体などの各人形と、男根の形をしたオンマラ、および道祖神のオスガタ一体を作る。人形は正月の松飾りのなかから形のよい枝を選んで四〇~五〇センチメートルほどの長さに切って作る。松の枝の上下を逆さにして、顔になる部分の皮を斜めに切り落とす。そして、白紙を着物の形に切って人形に着せて紙の帯で締め、墨で家紋や顔を描く。人形の数はとくにきまっておらず、嫁と婿を中心に毎年婚礼に必要とされる人形を適当に作るともいう。また、御幣を切って道祖神の御神体としオスガタとよぶ。さらに、枝が数本ついた適当な太さの松を山から切ってきてオンマラを作る。オンマラに使う松の一方だけは斜めに切り、そこから皮を真ん中まで細かく削って残す。ただ先端から三センチメートルほどのところは約一センチメートル幅で皮を削らずに残し、細かく削った皮の裏に黒い線、先端に黒い点を書き入れ、「御祝儀日方一同」と書いたのし紙をつける。新婚の家では、こどもが早くできるように願って婿がオンマラを作ったという。これらができあがると、村はずれにある道祖神碑に供える。