上深沢の人形

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裾花川と犀川の中間に位置する上深沢(小田切塩生)は一三戸の集落で、ここでも正月飾りを利用して嫁、婿、仲人、荷物背負いとよばれる道祖神の人形と、男根の形をした御神体およびオンベを作る。各家が回り順で当番になるが、婚礼などがあるとその家がなる。若者が多くいたころは、マキタテ作り、人形作り、火おこしなどすべてやっていたが、現在では若者たちは所帯をもつと長野の町などに移ってしまうため、年配者で祭りを支えている。

 人形に使う松は松飾りのなかから形のよいものを五本選び、顔になる部分の皮を削って男女の顔を墨で描き、中折りで人形の着物を作って、上深沢の「上」を家紋として書く。着物ができあがると人形に着せて帯で締める。荷物背負いにはにんじんでできたショウギダルとよぶ酒樽(さかだる)と、米を数粒紙で包んで世帯分入れ、婚礼の荷物として天秤棒(てんびんぼう)にぶら下げてもたせる。また、男根の形をしたツクリモノは御神体とよばれ、かつては松を使ったが今ではぬるでの皮を削り、先端に墨で黒点を入れて作る。これらは夕方、村はずれにある道祖神碑に供える。オンベは中折りを御幣の形に切って竹につけ、マキタテのときにいっしょに燃やしてしまう。マキタテの火おこしのときにはひのきの火きり臼(うす)、こうぞの火きり杵(ぎね)が使われる。火きり杵と火きり臼でおこした火は線香に移され、マキタテの種火となる。マキタテで、オンベの先に習字の紙をつけて高く燃やせば腕が上がるといわれる。かつては、マキタテと合わせて藁に火をつけ両端で投げ合って悪霊払いをしたという。そして、マキタテが終わると当番はその火を線香に移し、荷物背負いが背負っている荷物の中の米といっしょにお祝いとし、それぞれの家に配る。各家では、その火をかまどの種火として御飯を炊きその年の豊作を祈るという。


写真2-116 嫁・婿・仲人・荷物背負い・御神体(小田切上深沢 平成8年)

 祭り以外のときにも、年ごろの娘や息子をもつ親などは、道祖神碑や人形の前を通りかかるたびに「良縁がありますように」と祈った。また、親は年ごろになったこどもに嫁、婿などの人形を見せて「このように早く所帯をもつようになりなさい」とさとしたこともあったという。このように、昭和二十年ごろまで小田切のほとんどの集落では、小正月になると嫁・婿をはじめとする木の人形を作っていたが、昭和二十年代から三十年代にかけて、生活様式の変化や後継者不足などからしだいにその姿が消えてきた。なお、木の股(また)の部分を男根女陰とするために股木を用いて作る人形は、上水内郡戸隠村や北安曇郡小谷(おたり)村、北安曇郡白馬村などにもみることができる。