畳職にもプレハブメーカーの進出の影響はみられる。一〇年ほど前から大手の請負をする畳店と、S氏の店のように寺院や民家の畳の張り替えをする畳店に分かれてきた。建築業者の請負をする畳店は、木工団地という他の製造業(家具など)も入っている工業団地に工場をもったり、市街地から郊外に作業所を移して、コンピューターを導入して量産化をはかったりする傾向がある。一五年から二〇年くらい前までは畳店の仕事は、「裏返し、表張り、新畳(しんじょう)」といって、畳のござを裏返すのと、新しいござに張り替えるのと、まったく新しい畳を作るのとがほぼ同じ割合であった。最近では建築業者の請負を主にしているところでは、新畳が五割以上になり、逆に請負わない店では九割近くが裏返しと表張りになっている。
畳に関しては、プレハブメーカーでもすべて地元の畳店が入れている。というのは、いかにプレハブメーカーが規格に合わせた家を建てても、完成した一つ一つの部屋は微妙にゆがんでいるので、正確に寸法をとって部屋に合わせて入れなければ、すきまができたり、無理に押しこむようになる。畳が規格で入るならばスーパーでも売ることができるし、自由に入れ替えられるはずだが、実際にそうできないのはこのためである。採寸は竹の物差しでは狂いがあるので、最近ではアルミの物差しではかり、寸法紙に正確に寸法を取って、床を裁断するときに一分(三ミリメートル)単位で調整して作る。一枚一枚の畳の裏に、どこに入る畳であるかを書いてあるのもそのためである。T氏は「だから地元の畳屋のような零細企業が生きられるということじゃないですか」、と述べている。
現在は新しい畳は工務店経由で注文されるほかに、施主の直接注文がある。張り替えに当たっては、同じ畳店に頼む傾向がある。家のなかに入って家具も動かさなければならないから、初めての業者に頼むというよりも、慣れているところに頼むようである。
畳表には品質と値段に関して、顧客が判断できるだけの標準がない。そのため評価の仕方が、畳店のものとひとりひとりの顧客で一致しないことも多い。T氏にとっては「見てもらう目がなければこんなにつまらないものはない」。地元の業者としてただ高いといわれたのでは困るし、家族構成を考えて、こどもがいれば同じ値段の表でも丈夫なものを、あるいはきれいなものを使っていても長持ちするものを、というように畳を作るときに考える。縁(へり)も見本と完成品の違いがあるので、顧客の好みを聞きながら助言する。要するにその家に合うか合わないかということを考えるのである。そのため自分の作った畳がどのように使われているかは気になるという。個々の事例にこまかに対応できるのも地元の畳店だからであろう。近年増加している建て売り住宅やマンションのように、すでにできあがったものを買い取るのでは、顧客と作り手のあいだのやりとりがなく、こうした回路が閉ざされている。