久保寺三組の花火方にはそれぞれ流派かおる。小西組は霞真(かしん)流、大門組は大火(たいか)流、差出組は昇声(しょうせい)流とよばれ、おのおのが流派に特徴的な花火を奉納している。流派の特徴の多くは火薬の調合にあり、それを伝える秘法は各組の花火方のまとめ役であるゴッシャン(師匠)が所有していた。自分たちで火薬を調合していたころは、ゴッシャンが他の花火方に口伝えで調合の割合を指示するだけで、この秘法を他のものが目にすることはまずなかった。
明治十一年(一八七八)九月に記された霞真流の秘法(「火術秘法霞真流」)には、二四とおりの調合の仕方が記されており、それぞれにたとえば青光星・水玉・孔雀星(くじゃくぼし)といったような名称が付されている。現在では自分たちで火薬の調合をしていないため、これらがどのような色合いを出していたのかは見当がつかない。二四とおりの調合法で用いられている材料には硝石(しょうせき)・亜鉛・燐(りん)・樟脳(しょうのう)、それから麻・桐(きり)・椹(さわら)・松といった柔らかい樹木の炭が記されており、それらの微妙な配合により、霞真流では他の流派との違いを出していたものと思われる。
このような秘法は各流派で所有している。それが各流派に所属する花火方の自己意識に影響をあたえてもいる。だが、いずれもこんにちではゴッシャンの門外不出文書ではなく、小西組のように花火方の世話人の申し送り文書になっている。また、各流派の調合に合わせて業者に調合してもらっているというが、すべての調合法による花火がこんにちの杜煙火で見られるわけではない。むしろこんにちの杜煙火で各流派の特徴を、祭りの夜神社の境内に集まった見物人たちに押しだしているのは、調合法による違いではなく、演目による違いにある。
たとえば霞真流の名物花火は、「東海道五十三次」であるという。これは予算の関係から平成二年に奉納したきりおこなわれていない花火であるが、「霞真流といったら東海道五十三次」といわれるぐらい、霞真流の特徴を人びとに知らしめている演目である。