犀川神社で奉納される花火には、次項で述べるように仕掛け花火を含めていろいろあるが、基本的なものとして立火の作製をここにあげておこう。立火は、社号変更披露のさいに奉納されたといわれている竹筒花火のことである。
立火を作るには、径一〇センチメートル、長さ五〇センチメートルほどの竹のいっぽうの節を利用して火薬を詰めていく。節の外側には、火薬を詰める作業中、底が割れないようにと新聞紙を丸めて詰めこんでおく。それからトノコを三センチメートルぐらいの厚さになるよう竹筒のなかに入れ、そのうえから木の棒をあてがい、棒を本づちでたたいてトノコを定着させる。その後は調合済みの火薬を紙製スプーンですくっては竹筒に入れ、火薬が飛ばないように紐(ひも)のついた和紙を入れてから木の棒をあてがい、木づちでたたく。スプーン一杯の火薬にたいし五〇回を目安にしてたたくという。五〇回ぐらいたたいて、もう大丈夫かと感じたら、竹筒をひっくりかえして余った火薬を外に出し、またこの作業を繰りかえす。
立火はロケット花火のように勢いを出す花火とは違うため、火薬を固く詰める必要はないが、火薬が一定の固さで詰まっていないと火花の出方にむらがでるため、この作業は「一定の力で」つづけなければならない。一本の立火作りの火薬を詰めこむのに、だいたい四〇分ぐらいはかかるといわれている。
火薬を詰め終わると新聞紙を最後に詰める。そのあとは打ち上げ時に竹が割れるのを防ぐため、竹の回りに縄を巻く。巻き終わったら節のほうに穴をあけ、着火用の芯(しん)を入れてできあがる。小西組では例年三〇本ぐらいの立火を用意しているという。
このほかの花火の作り方も、たとえばナイヤガラの場合は紙製の筒を使い、色合いの変化を出すために調合の違う何種類かの火薬を分けて詰めこむなどの違いはあるが、基本は立火と同様である。
花火への着火はランスを用いているが、実際の打ち上げ現場ではランスは着火以外に、打ち上げ準備完了か否かを花火方同士が連絡する役目ももっている。
以上の作業は、現在では業者の工場を作業場として開放してもらっておこなっているが、今ほど取り締まりのきびしくなかった時分は、花火宿ともよばれていた花火方の元役(ゴッシャン)の家の土間を使い、そこでおこなっていた。花火を作るのは花火方でも年季の入った人たちであった。入ったばかりのものはゴッシャンにいわれるまま、硝石やら炭やらをヤエン(すり鉢)を使ってすりつぶす役がもっぱらで、花火作りにたずさわるには、それ相当の年季を必要としていたという。