九月二十一日、犀川神社の秋の例大祭前夜は、氏子衆三組の杜煙火と神楽・獅子舞の奉納によって、境内は日ごろの静寂をよそににぎわう。
平成九年度の犀川神社奉納番付によると、午後八時から神社後方の太郎山で、業者の手による打ち上げ花火が打ち上げられている。境内では霞真流の花火方が立火をときおりあげる。立火は暗い境内を照らす照明の役割であったといい、こんにちではその後に到来する神楽獅子や各流派の花火への期待を高める露払いのような役割も果たしている。立火はその後も演目の合間合間にあげられる。
また、境内に設置されたアナウンス席からは神社や神楽獅子、花火のいわれが見物人に伝えられ、見物人たちの興味を高める一役をかっている。
午後九時になると、それまで各組の町まわりをしていた神楽三台が、神社境内の入り口に設置された会所に到着し、その後は前述した嘉永二年の文書にあるように、神楽と花火が交互に奉納されることとなる。演目の順番とそれに関係する花火方、獅子方をつぎに列記しておこう。
一 十二灯(小西霞真流) 一 三宝(大門大火流) 一 笠鉾(かさぼこ)(差出昇声流) 一 三番叟(さんばそう)(小西獅子方) 一 車火(大門大火流) 一 額火(仕掛け花火) (差出昇声流) 一 ナイヤガラ(小西霞真流) 一 長母衣(ぼろ)(三組の獅子方合同) 一 銀閃火(きんせんか)(大門大火流) 一 特大スターマイン(千曲物産奉納、神社後方、業者による) 一 ナイヤガラ(大門大火流・差出昇声流) 一 曲獅子(三組の獅子方合同) 一 白滝(大門大火流) 一 清滝(差出昇声流・小西霞真流)
氏子衆による神楽・獅子舞と花火の奉納の順番は、その年によっては若干の入れ替えがあるようであるが、おおむね演目に変化はない。花火への点火のさいには番付とともに流派がアナウンスされているので、花火の各流派は自分たちの出しものにたいし自己意識をもつようになるし、見物人へのアピールにもなるであろう。
だが、演目に変化はないといっても、花火の実際の内容となると、差出昇声流の名物花火といわれる額火は毎年絵柄(主にアニメ)が変わるというし、先に触れた小西霞真流の東海道五十三次がおこなわれる年は、七番目のナイヤガラと交替することもある。また、二流派がおこなう十一番目のナイヤガラと最後の清滝は、合同でおこなうのではなく、別々の場所から自分たちの花火に同時に点火するもので、見物人にしてみれば目と耳で流派の違いを知ることになる。同じように作っているつもりでも、年によってはうまくいったりいかなかったりすることもあるそうで、花火方にとって花火を作ることは「一生勉強がつづく」ような感じであるという。