花火に託す個人メッセージ

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市のレベルで開催される花火大会は、見物人にとっては遠くで見ているだけのものといえる。打ち上げられる花火に見物人が直接関与することはまずないだろう、そう思われていた花火大会を市民参加型イベントとして誕生させたのは興味深い試みである。

 ニコニコお祝い花火では、何かお祝い事を記念して、自分だけの花火をあげることができる。花火は一瞬のものであるが、それを写真にして記念にとっておくこともできる。それまでは単なる見物人であっても、ニコニコお祝い花火では、打ち上げられる花火に自分のメッセージを託す形で直接参加することができるようになったのである。

 一口に市民参加型イベントといっても、理念と実際とで開きのある場合もある。そこでつぎにはニコニコお祝い花火のプログラムをとおして、市民の参加の状況をみていくことにする。

 平成九年八月で第五回の開催となったニコニコお祝い花火では、毎年二〇〇発前後の花火が打ち上げられている。依頼者は企業・団体からの依頼が、年によって多少のばらつきはあるものの七割前後を占めている。ただし、この場合の企業・団体には、えびす講煙火のような大きな花火大会に出資している企業もあるにはあるが、むしろ中小企業の参加が目立ち、個人的参加の色合いが強い。また、打ちあげる花火に自分たちの商店・企業の宣伝や顧客への感謝のメッセージをあてるなど、総じて宣伝色の強いものが目立つ。ニコニコお祝い花火組織委員会では三〇万円の予算を組み、配布プログラムの作成、『週刊長野』、『信濃毎日新聞』へプログラムの掲載をしているので、その宣伝効果は中小企業や団体にとっては大きいものと思われる。

 つぎに個人(家族)の参加状況だが、これは個人的なお祝い事を記念して参加する傾向がある。家族の誕生、入学、合格、結婚、長寿を祝って打ちあげられるお祝い花火が多い。また、個人の祝い事らしい文面ではなくても、第一回に参加した「長野に来て二〇年の感謝」というメッセージなどは、心情的には祝い事の部類に入るだろう。同様に「祖母 浪江さん八四歳の年女ですが、まだまだ元気です。孫 宮崎俊夫・由美子」、「おかげ様で元気になりました」(ともに第一回から)というメッセージも、祝いの心情が花火に託されている。

 個人(家族)での参加は、先の企業・団体の参加が自分たちの存在を顧客に披露する宣伝の傾向が大きいのに比べ、このイベントの名称にもなっているお祝いの私的な傾向がよりはっきりと出ているといえる。


写真2-194 ニコニコお祝い花火 (裾花川河川敷 平成9年)