生産活動のもとになる物質とエネルギーについては、『市誌』①自然編で少し触れられているが、それらをふくめて、資源の視点からその全容をみていくことにする。
資源といえば、むかしは地下資源を指すことが多かった。地下ででき、そのままそこにとどまるもの、地表にあらわれでているものがあり、物質・エネルギー双方に融通(ゆうずう)の利く石油・石炭や金属鉱石、特殊な元素をふくむ鉱物、石材そのものなど、内容はさまざまである。
石油(正しくは原油(げんゆ))が地中から流れでていることは真光寺(しんこうじ)(浅川)あたりでは古くから知られていたが、産業的利用の記録は江戸中期から始まる。はじめは個人、ついで数人で採り、さらに会社をつくって大規模に採取したが、産出量がしだいに減って廃業となった。原油は黒褐色~赤褐色のどろどろした液体で、悪臭があって扱いにくいため草生水(くそうず)(臭水(くそうず))とよんで敬遠されていたが、佐久間象山の指導で蒸留(じょうりゅう)して無色透明な石油を得ることができた。石油の出る兆候(ちょうこう)は浅川のほか茂菅(もすげ)・塩沢(箱清水)・旧善光寺温泉(芋井)・鑪(たたら)(芋井)・小田切(おたぎり)などでもみられた。油兆(ゆちょう)を頼って試掘をした結果、石油ではなく天然ガスが出たところもあった。
天然ガス(ただし、メタンなどの炭化(たんか)水素系の燃えるガス)は石油と関係が深く、石油にともなって出ることが多い。真光寺では自家用の井戸を掘ってガスを出し、ガラス工場を始めた家もあった。ガスの兆候は善光寺温泉・鑪・茂菅・塩沢・小渕(こぶち)(小田切)・論地(ろんじ)(七二会)・舟久保(ふなくぼ)(小田切)・表濁沢(おもてにごりざわ)(同)などでみられ、ガラス工場も二軒ほどあった。むかし、舟久保のガスは一〇キロメートル先の市内中御所まで鉄管を通して送られ、圧縮して、バス・トラックその他に使われたほどの勢いがあったが、ガスの出方が衰え、いまはこの事業の跡形(あとかた)もない。新橋(しんばし)(小田切)の東の沢に出るガスは硫化(りゅうか)水素系、飯縄山麓(いいずなさんろく)の鉄鉱泉(てっこうせん)にともなうガスは二酸化炭素(炭酸ガス)で石油とは縁がない。燃える資源としては、石炭より炭化の程度が低い亜炭(あたん)が旭山東がわの崖(がけ)のあいだ、北郷(きたごう)(浅川)付近、茶臼山(ちゃうすやま)の地すべり地の南壁などに厚さ数十センチメートルの層をなして存在し、戦時中には代用燃料として使われたことがあるが発熱量は少ない。亜炭よりさらに炭化程度が低い泥炭(でいたん)(草炭(そうたん)をふくむ)は、乾燥すれば燃えるが、燃料としては無理とされた。
長野市にはこれまでに十数ヵ所の石切り場があり、そこで採掘された石は石材として道路建築・石垣・石碑などに使われてきた。長野盆地西がわの石山は郷路(ごうろ)山・狢郷路(むじなごうろ)山・髻(もとどり)山とも採石(さいせき)を休止している。盆地の東がわでは松代の周辺で地質年代の古い緑色凝灰岩(りょくしょくぎょうかいがん)の石がいまも切りだされている。近くの柴石(しばいし)は西がわと同類の比較的新しい安山岩で、場所を移して採石されている。長野盆地の西の縁(ふち)を特徴づける白い崖は流紋岩質(りゅうもんがんしつ)の凝灰岩で、とくに裾花(すそばな)凝灰岩とよばれている。この白土を切り崩して水で選別し、磨砂(みがきずな)などそれぞれの用途に振り向けられてきたが、需要も業者も滅っている。ところによっては小規模ながら陶磁器の原料として適当な粘土類(陶土)が出る。
ベントナイト(膨潤土(ぼうじゅんど)・膨土・天狗の鼻汁(てんぐのはなじる))は粘土の一種で、水を加えると数倍にふくれ膠(にかわ)状の溶液にまでなる。吸着性が強く用途が広い。上松・浅川・小松原(篠ノ井)・小市(こいち)(安茂里)などで横穴をあけて掘ったことがある。味噌土(みそつち)(天狗の麦飯(むぎめし)・飯砂(いいずな))は淡灰(たんかい)色で弾力性のある直径二~三ミリメートルの粒子の集まりで、吸水性が強く湿れば味噌のようにみえる。この土のアルミニウム含有量が大きいことがわかり、アルミニウムの資源として注目されたが、土の量が少ないので期待は消えた。鉄については、飯縄・黒姫の山麓に鉄鉱泉がつくった鉄の鉱石、褐鉄鉱(かってっこう)が大量にある。芋井(いもい)と地続きの牟礼(むれ)村では、戦時中この鉱石を製鉄所に送って役立てたことがある。赤柴(あかしば)(松代町)には武田信玄開発伝承のある銅山がある。鉱脈が細く開発と中止が繰りかえされたが、廃鉱になっている。
長野市には温泉の条件を満たす温泉・鉱泉が二八ある。出た場所で使っているもの、引き湯しているもの、容器に入れて運んでいるもの、使っていないものなどさまざまであるが、それ以上には使われていない。資源の視点からみれば、大量のエネルギーと湯に溶けている多種大量の貴重な物質は、入浴による心身の健康増進にいっとき役立つただけで、その資源価値は消滅したことになる。表1に新しく掘削された温泉・鉱泉の成分を例示したが、それぞれ既存(きそん)の近隣の温泉に類似している。
石油・天然ガス・銅の鉱山などが操業を停止したのは、いまの科学技術と採算性の制約のもとでは継続が困難というだけのことで、地下資源の枯渇(こかつ)とは直接結びつかない場合が多い。
いまをむかしとする将来、探す学問と掘る技術の進歩、それに国際的な資源や経済状況の変化などのもとで、これまでの資源のありそうな兆候や掘った経験を手がかりに再開発が見直される可能性がある。