はびこる帰化植物

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千曲川や犀川の岸辺に立つと、手招きするように大きなオギの穂が風に揺(ゆ)れ、夕日をあびて銀色に輝いていた。水辺にはヨシ原がずっと広がり、ヨシキリのかん高い鳴き声がうるさいほどだった。ところが最近はヨシやオギの原はすっかり荒れ果てて、かわって新たに侵入してきた外国産の帰化植物がわがもの顔で広がっている。

 まず、春の河原を淡い黄色に染めるのはハルザキヤマガラシで、夏には赤色のムシトリナデシコ、秋に咲く黄色のセイタカアワダチソウも目立ってきた。背丈をこすオオブタクサは減るようすもなく、花粉症の発生源でいっそう嫌われる。最近は、もっとやっかいなアレチウリがはびこりだしてきた。このつる草は水辺の木々にもよじ登り、何もかもすっぽり覆って枯らしてしまう困った強害草(きょうがいそう)である。鉄道沿線でも、古来からあったクズやフジより強靱(きょうじん)で増えている。ウリの仲間だが瓜(ウリ)がなるわけでもなく、つるが四方に伸びて猛烈に繁茂する。


写真12 草木を覆って枯らしてしまうアレチウリ

 われわれの身近には、おびただしい数の帰化植物が生育してきた。なかにはオオイヌノフグリのように、春を待つ早春の風物詩としてすっかり定着した植物もある。ところが、帰化植物は概して害草視されやすく、さまざまな影響をあたえて困った存在となっている。

 まず、花粉症を引きおこす代表種は、本国のアメリカでも嫌われもののブタクサとオオブタクサである。さいわいにブタクサは長野近辺でさほど増えていないが、オオブタクサは勢いがよい。葉の形が桑に似て別名をクワモドキといい、昭和二十年代の終わりに帰化した来歴の浅い仲間である。それ以来、急速に全国的に分布を広げて日あたりのよい道ばたや荒れ地で目立つようになってきた。とくに湿り気があって、窒素分が多く有機質に富む土壌を好み、川岸や河川敷で竹やぶのように大群生する。また、カモガヤやオオアワガエリなども花粉症で知られ、これらはヨーロッパ原産のイネ科の牧草である。

 アレチウリをトゲミウリ(刺実瓜)ともよび、果実に鋭いトゲをもっている。葉や茎にも恐ろしいトゲのある帰化植物は意外に多く、駆除する作業が危険なほどである。アレチウリはほかの植物を覆い隠して枯れ死にさせるが、寄生植物のアメリカネナシカズラは針金のような茎を巻きつけて、吸盤(きゅうばん)で養分を横取りして絶滅させている。

 有毒成分をもつ帰化植物も増えてきた。身近に見られるチョウセンアサガオは、全草が有毒で狂乱を引きおこすからキチガイナスビといい、草の液を誤って目に入れると瞳孔(どうこう)が開いて失明かと思うほどだという。ほかにも、気をつけねばならない帰化種の毒草は数多くある。

 繁殖力の強い帰化植物も困りものとなる。どこでも見られるおなじみのヒメジョオンやヒメムカシヨモギ、増えてきたハキダメギク、ホウキギク、そしてセイヨウタンポポ、ハルジョオンなども取りつくせない害草である。水生植物には茎の一部がちぎれて大繁殖するものがあり、ホテイアオイやオオカナダモ、コカナダモなども池や沼でやっかいもの扱いにされている。

 このように迷惑な帰化植物を除去するには、けっきょく人力に頼るしかいまのところ方法がない。帰化植物が定着して広がる環境には、放置した田畑、堤防、路傍(ろぼう)、河原が多いことが、市内の調査で明らかになった(『市誌』①三五六頁)。したがって、いかに土地の攪乱(かくらん)を少なくし、裸地(らち)を拡大、放置しないかが基本的に大事なことである。

 他方、カキやクルミの木の下は忌地(いやち)といって、作物や雑草さえ育ちにくいということがむかしから知られていた。いくつかの帰化植物でも、体内から排出する物質によって他の植物が影響をうける他感(たかん)作用(アレロパシー)の存在がわかってきた。また、生育を阻害する自家中毒的な作用も解明されだしたので、これらの生理生態的な研究から帰化植物の駆除方法の開発にも期待をしたい。