ソウギョやブラックバスなどを、溜池や釣り堀・湖沼などに無断放流されたため、水中にいたトンボの幼虫(ヤゴ)がまず大きな影響をうけてしまった。長野市内の河川、湖沼、溜池などに生息していたトンボ類は、県内産トンボ類の約七三パーセントにあたる一〇科六三種という多様なトンボ類であった。
このトンボ類のなかで、ソウギョやブラックバス、ブルーギルなどの魚類にもっとも大きな影響をうけたのは、湖にすむ二九種のトンボ類である。成虫も水草の上にいるキイトトンボやクロイトトンボ、県内でもまれなコバネアオイトトンボなど、体が細長く小さいトンボたちが、まず、姿を消してしまった。
さらに、中型のサナエトンボ類のホンサナエ、コサナエ、大型のコオニヤンマ、ウチワヤンマなどで、幼虫はともに大きいので、食害も大きかった。これらのトンボの成虫は、季節になると池や湖の水面上、とくに岸に近い水面を飛び、産卵していたが、今日ではその姿はみられない。また、市内の池や湖に生息数も多く、水辺のトンボとして子どもたちに人気のあったエゾトンボ科のトラフトンボやオオトラフトンボ、トンボ科のヨツボシトンボやコフキトンボ、県下でもっとも美しい、羽の付け根が紅色のネキトンボや、腹部の一部が白色のコシアキトンボ、まるでチョウのように美しくめずらしいチョウトンボたちが、これらの池から姿を消してしまった。もっとも残念なのは、子どもにも大人にも好まれ、トンボの代名詞になっていたギンヤンマやクロスジギンヤンマなどの大型ヤンマが姿を消して久しい。これらのヤンマは幼虫も大型であるため、肉食魚にとっては格好の餌になったと思われる。
これらの大型ヤンマはゆうゆうと水面すれすれに右へいったり左にせん回したり、水辺の生きものの代表であった。飯綱高原や山間地の池と湖では、体がるり色で美しい大型のルリボシヤンマとオオルリボシヤンマが水面を、すべるように飛んでいたが、これら大型ヤンマもほとんど見られなくなってしまった。
イモリ(ニホンイモリ)は池や湿田にいて、腹部が紅色で親しまれていたが、卵を池の水草に産みつけるので、水草のない池では産卵できないし、イモリ自身、水中にいるので、肉食魚にあったらひとたまりもない。
また、私たちの家や庭のまわりの木の上などにいる小型で美しい緑色のニホンアマガエルも、畑にいる赤褐色のヤマアカガエルも、産卵には池にもどり、水草や水面に産卵し、幼生は水中で生活している。また、田植え後の水田で、夕方から夜にかけ、グウルルとにぎやかに鳴きさわぐトウキョウダルマガエルもツチガエルも卵は池に産み、幼体(オタマジャクシ)も池のなかにいる。
アメリカから食用ガエルとして移入され、湿田や池のなかで、ボーボーと牛のように鳴いていた大型のウシガエルも、卵は数千個産むがやはり、池のなかである。しかも、ウシガエルの幼体は池のなかで二年過ごし、三年目にカエルになるので肉食魚にとっては絶好の餌になってしまう。
いま、私たちの身のまわりにいたこれらのカエル類も、そのほとんどが姿を消してしまった。
このように、外国産の草食魚や肉食魚が勝手に放流される無法は許されるはずがない。