一九七〇年代を中心に市内で猛威をふるった街路樹やサクラの害虫アメリカシロヒトリは、徹底的な防虫作業や消毒作業の結果、一九八〇年代末には、市内の街路樹や学校や官庁のサクラなどからも、まったく姿を消してしまった。アメリカシロヒトリの幼虫が姿を消して今年(平成十六年)で約一七年たつが、今日においては街路樹に一匹もその姿をみることはできない。一体、アメリカシロヒトリはどこへ消えてしまったか。毎年初夏になると市内もれなく歩いて探してみているが、一匹も見つけられない。
アメリカシロヒトリは本当に消えてしまったのか。そんなことがあるはずがないと、探し歩いた。アメリカシロヒトリは人間の生活圏でしか生きられない虫であることを思い、七、八年前から畑や、果樹地帯、河川敷などを調べている。千曲川の両岸に広がる放置された桑畑や、畑のなかで放置されたカシグルミや岸辺のオニグルミなどを調べると、地面に糞(ふん)が散らばっている。近くにあるクワの葉の裏がわをみると、アメリカシロヒトリの幼虫が群れている。よくみると、カシグルミの高い枝の葉にも幼虫が群れている。平成九年(一九九七)の夏のことである。
それから、毎年、同じ場所を訪れ調べるが、ほぼ同じ卵塊と、似た数の幼虫群がいるだけで、生息範囲を広げるようすがみられない。来年も人目のつかない河畔(かはん)のオニグルミや放置された桑畑のクワなどで細々と生きつづけていると思われる。放置された桑畑で、やはり、アメリカシロヒトリは自然界に生きるたくましい「生きもの」であることを知った。
また、善光寺平の市内を流れる千曲川と犀川、それに流れこむ支流の小河川の両岸には、自然に生えたオニグルミの葉が数年前(一九九七年)ごろから、秋になるとなくなり、枝だけになってしまい、葉は枝に丸まるように虫の糸でからみついている。
なかをのぞくと、体長三センチメートルほどで紅色の紋のある幼虫(写真18)がいる。トサカフトメイガというガ(蛾(が))のこの幼虫は、冬には地上に下り、越冬し、春にはそのまま蛹(さなぎ)となる。そして、クルミの葉が茂る六月には成虫となり、交尾しクルミの葉に産卵をする。卵は一〇日ほどで幼虫となり、葉をことごとく食べつくしている。
トサカフトメイガは、図7に示してあるように、羽を広げても三センチメートルほどで、色は黒褐色で、以前からみられたが、きわめて少ないものであった。
このガは、本州、四国、九州、屋久島に生息し、国外では台湾、中国南部からインドにかけて分布している暖地性のガで、長野市内においても以前から生息していたが、とりたてて問題にするほどでもなかった。
今後、分布範囲や食害がどうなるか判断できないが、畑に栽培されているカシグルミに、この食害が広がるようだと、大きな農業問題になることが考えられるので、十分に注意していきたい。