増えてきたイノシシ

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イノシシは漢字で書くと、「野豚」とも書くが、そのとおり、野生の豚で、体には黒か黒褐色の針のような剛毛があり、鼻先は突出し、四本のするどいキバ(犬歯)がある。春から六月に数匹の子どもを産む。子どもは茶褐色であるが、全身にあざやかなオレンジ模様が流れるように散らばっているので、「瓜ン坊(うりんぼう)」とよばれている。もともとユーラシア大陸の南部一帯から東南アジアなど暖地の動物で、日本では本州中部以南、四国、九州、南西諸島に生息しており、県内では冬でも雪のない中南信に生息していた。

 ところが平成七年(一九九五)ごろより、松代方面の畑にあらわれるようになり、平成十二年ごろからは須坂市、中野市、湯田中(山ノ内町)、飯山市方面でもあらわれるようになった。そして、イノシシは田畑を荒らし、野菜や果実、芋(いも)類を食うため、農家にとっては無視できない害獣となっている。

 図8は豊栄(とよさか)(松代町)の放置された畑で拾ったイノシシの下あごの骨である。図8でわかるように、するどいキバ(犬歯)はぬけ落ちていたが、このキバの一本も近くの草むらで拾うことができた。

 白骨になっているところをみると、二~三年前に自然死したものを肉食動物であるキツネや雑食動物であるタヌキなどに食いちぎられたものと思われる。


図8 イノシシの下あごのスケッチ 前歯が並ぶあごの幅7cm、ぬけ落ちているキバ(犬歯)歯穴直径3cm、奥歯(臼歯)が6本あるあごの幅7cm、長さ10cm、下あごの全長30cm (倉田稔作図)

 イノシシの食性は、基本的には雑食性であるから、目の前にある食べられるものは何でも食べてしまう。そのため、困ることがある。サトイモや長芋、大根、ジャガイモなどを食べるときは畑を鼻先で掘り返してしまう。また、キビや大豆、タケノコ、シイタケを好んで食べるので、タケノコやシイタケ栽培は十分注意しなければならない。動物性のものでは、ネズミ、ヘビ、ノウサギ、カエル、カブトムシやその幼虫、カニ、ナメクジまで、手あたりしだい食べている。

 なかでも一番困ることは、自分自身を清潔にするため「泥浴」といって、湿っている水田でころげまわり、身体を泥だらけにしてごみやダニなどの寄生虫を取りのぞくため、ときには田植えをしたばかりの水田で、ころげまわり、稲田はメチャメチャにされてしまう。

 普通の雌親は山麓(さんろく)などに放置された枯草などの茂る畑などで、枯草を上手に集め、子どもをふつう三匹から六匹くらい産んでいる。しかも、雑木林のドングリやクリが多くなると栄養がつくので、産む子どもの数も多いという。

 温暖化傾向にある今後を考えると、長野市においても自然増殖がはげしくなり、水田や農作物にたいする被害が増えることが考えられる。