2 名主の役務

169 ~ 169 / 699ページ
 高山の清田家に、名主役の引継書(14)が蔵されている。慶応四年(一八六八)正月のごく新しいものであるが、その引継ぎ品目は、名主役の任務を如実に示している。反別帳・名寄帳から枡や秤(はかり)など、ほとんどが年貢収納にかかわる帳簿や用具である。名主の主たる役務は、年貢を滞(とどこお)りなく上納することであった。名主は、まさに支配機構の末端に位していた。人別改(にんべつあらため)・御触(おふれ)や達(たっし)の伝達・風紀の取締・夫役の割当など、何れも支配者の意図を体した上意下達の役務である。
 しかし、名主も在郷の百姓である。そこで、村民の代表あるいは世話役としての仕事も数限りなくあった。村民を代表して願書や届書を差出したり、他村と交渉したり、諸証文に加印したりした。道普請や堰普請の企画をするかと思えば村人の争いの調停に当たる。どんなさ細な事も、総て名主のところへ持ち込まれた。いずれにしても、村民に対し絶大な権力をもっていたので、そこから悪名主の物語りや義民木内宗吾郎の伝説などが生れたのである。