5 農具

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 農具に関する記録も郷土史料の中から見出せなかった。一般的にいって、耕起用具として犁は早くから用いられていた。しかし、犁は牛馬を所有しない小農には無用の長物であった。また、深耕できないという欠点もあった。犁が改良され深耕できるようになったのは、明治になってからである。
 鍬は耕起用具の本命であった。元禄のころまでは、総ての仕事がひとつの鍬でなされていたが、享保期より使用目的に合わせてくふうされた鍬が全国的に普及した。備中鍬は、匁先を何本かに分けて重くし、荒起しに用いられた。刃先がよく土にくい込み、深耕できるよう改良されたのである。中耕には備中鍬を軽く小型にしたものが用いられた。郷土では、この鍬を「まんのうぐわ」という。
 耕起とならんで労働力を大量に要する収穫時の農具もくふうされてきた。貞享・元禄ごろに発明された千ばこきは、享保期から全国的に普及した。扱き箸(こきばし)と称する二本の棒の間に稲穂を挾み、引きしごいて籾粒を落していた方法と比べると、能率の向上は著しいものがあった。千ばこきは、大正年間に至り足踏脱穀機が実用化するまで使い続けられた。
 籾すり用の土臼や千石どおし、唐箕(とうみ)も江戸時代中期に一般化し、昭和二〇年代まで用いられた。