1 立鳥村掟書(おきてがき)

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 正徳四年(一七一四)一二月の立鳥村掟書(17)は、蓋紙(ふたがみ)とも二七枚、全五五条から成る膨大なものである。よくみると、公儀からの法令だけでなく、地頭の達(たっし)事項も含まれている。いわゆる五人組帳前書に類するものであるが、その細々とした禁令や規制に驚かされる。この五五条の内、年貢米金・跡式(あとしき)・質地(しちぢ)・切支丹(きりしたん)・五人組などに関することを除き、日常生活に密着した規制事項をいくつか挙げてみる。
一、水論・山論・境論または喧嘩(けんか)口論の節、弓・鑓(やり)・鉄炮は申すに及ばず、刀・脇差を持ち出してはならない。
一、山林竹木は、自分の林といえど猥りに伐り出してはならない。
一、領内で猥りに酒を造ってはならない。他所より酒を買入れ、村内で商売することは固く禁止する。
一、時相場(ときそうば)より過分に安い品物を、請人無しで買ってはならない。
一、印判を猥りに替えてはならない。紛失の節は、名主・組頭は地頭用所へ、惣百姓は名主・組頭へ届出、印鑑帳へ載せること。
一、遊女を抱置くことは、前々のとおりいっさい制禁のこと。
一、免許なく百姓が猥りに刀を差してはならない。
一、聟取(むことり)・娵取(よめとり)の節、名主といえど乗物を用いてはならない。祝言(しゅうげん)の参会者は、家族・仲人・五人組の外猥りに人を集めてはならない。料理は一汁三菜、肴二品、大酒乱舞は停止のこと。

 このように、結婚式の酒肴まで規制している。
 以上は、百姓に対する規制であるが、中には地頭所役人や村役人の非分について、一般の百姓が弾劾できる道も開いている。「此方役人・組頭・名主非道の儀ある時は、此方へひそかに申し出べし」とし、「以後組頭・名主・此方役人あだをなさざるよう申し付ける」とある。役人の報復に対する配慮までなされている。また、地頭所役人が村へ出向いたとき、押売りや押買いをしたり、御馳走や贈物を強要したりすることを固く禁じている。地頭所役人の押売りとは、大した値打もない品を売りつけることで、百姓どもは役人にへつらい、わざと高額で買い取った。押買いはその逆で、地頭所役人が欲しがる品を、極端な安値で売った。一応売買という形をとり、贈収賄とならぬようにしたものである。このような条文があること自体、何らかの非道がなされていた証拠である。