村の争いには大小様々ある。土地争い、小陰切(こさぎり)の争い、小前と地主の争い、寺社との争いなど、人の住むところにいさかいは絶えなかった。この節では、個人的な対立や小規模な争いを除き、村と村との争論を中心に述べてみたい。農業経営の絶対的要件である農業用水の争い(水論)山林原野用益権の争い(山論・野論・秣場論(まぐさばろん))、重い夫役に苦しめられた助郷争論などあるが、その多くは、農民の死活にかかわる重大事として、江戸評定所で黒白を争っている。江戸で裁判を受けるということは、長い日月と多額の費用を要し、しかも、評定所における吟味の際は証拠をそろえ、知力と精神力を傾けなければならなかった。それでも、なお且訴訟がくり返えされている。なぜ、必死に争わなければならなかったかを、後述の具体的事例から究明したい。