4 長柄町の基本構想と発展 4 Basic design and development of Nagaramachi

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 長柄町の総合計画策定審議会を中心とする討議の結果、昭和四五年二月に至り、昭和六〇年を目標に次の様な基本構想が策定され、それに従ってその後の長柄町は着実に発展したのである。その推移を次に辿って見たい。
 
  一、町の将来展望
 発展の方向
 千葉県の首都近郊地帯は都市化・工業化地帯として、首都圏整備法により開発が進んでおり、北総地帯も新国際空港及びニュータウンの建設等飛躍的な発展が約束されている。本町の属する南総地帯も、発展のおくれを解消するため、千葉県では、農水産業と観光の振興を重点に開発計画を策定し、明るく豊かな生活の実現に第一歩をふみだした。本町は、京葉工業地帯の中核として、発展途上にある市原市と内陸工業都市茂原市の中間に位置する立地条件の有利性にもかかわらず、従来は、交通網の未整備がネックとなって開発の遅れた地域に位置づけられてきた。しかしながら、本町の緑の深い自然公園、房総導水路計画によるダム、その他、変化に富んだ施設や風景は、増々複雑化する現代社会の中で、人々の憩いの地であり、その周囲には居住環境に恵まれた、住宅適地を有している。また、工場適地への企業の誘致、本町の基幹産業である優良農地の基盤整備に伴う農業の近代化を推進することにより、就業構造が改革され、将来は均衡と調和のとれた「明るく豊かな町」として発展するものと想定される。
 開発の基本
 前項で述べた客観的諸条件のもとに、本町開発の基本を次の点に置く。
 ○優良農地の基盤整備の推進
 ○野菜・畜産・養蚕・果樹園芸・特殊林産物などを中心とした需要に即応した供給地としての農林業開発
 ○基幹道路の新設及び整備
 ○公害のない内陸工業地としての開発
 ○健康的な住宅地ならびに観光地としての開発
 社会経済の将来像

 (1) 人口
 京葉工業地帯では、すでに工場のばい煙等に伴う公害が発生している。今後各工場が全面操業に入った場合、公害は、一層増大するものと推測される。従って、今後の住宅地は、交通の発達と社会経済の進展にともない、環境に恵まれた郊外地域に造成される傾向にある。本町は、この工場地帯からほぼ二〇キロメートルの通勤圏内にあり、今後、これ等工業就業者の住宅地として開発されるであろう。
 本町に於いては既に造成中の住宅地は四〇ヘクタールに及んでおり、更に内陸工業の開発に伴い計画的に良好な宅地を供給することにより、昭和四〇年に、八、〇六四人であった人口は、目標年次には、一・四九倍の一二、〇〇〇人に増加するものと見込まれる。世帯数は、昭和四〇年に一、六五六世帯、一世帯当り四・九人であったが、世帯細分化の進展と人口増による世帯と合わせて、目標年次には、三、三〇〇世帯一世帯当り三・六人になるものと想定される。

 (2) 就業構造
 将来の町開発に伴い、総就業者数は昭和四〇年四、二六八人から五、四〇〇人と約一・三倍の増加が想定される。町内への企業進出、宅地による増加、就業人口は二・三次産業就業者であり、更には、農家世帯員の他産業進出による兼業化等の現象により、産業別就業構造は昭和四〇年に第一次七〇パーセント、第二次一三パーセント、第三次一七パーセントであったものが、目標年次には、第一次二六パーセント、第二次三四パーセント、第三次四〇パーセントと変化し、著しく近代化されることになる。

 (3) 生活水準
 就業構造の高度化、農業の近代化等により、目標年次の町の分配所得は、一〇六億八千万円、町民一人当りは八九万円と推計される。県民一人当り一一六万円に対し、格差は、七七パーセントとなり、昭和四〇年における県との格差七三パーセントより改善されるものと思われる。個人支出の面をみるに昭和四〇年の住民の可処分所得九五・九パーセント、税及び税外負担四・一パーセントであったものが、目標年次には、社会資本・社会保障の充実が要請されて、この比率が八九・三パーセント、一〇・七パーセントと変化が予想される。しかし可処分所得の大幅な増加により、大型家計が実現し、個人消費は大量生産、大量消費という時代背景の中で、飲食費は三六パーセントから二〇パーセント程度に下がり、エンゲル系数を低くし、住居費・耐久消費材の購入・教養・レジャー費の占める率が高まる。一方では、社会制度の改善により、貯蓄に対する考えの低下が予測される。これに伴って、町に対する行政需要も、生活環境の整備を中心として、多様化して来るものと考えられる。こうした要請に応じて、各種の公共施設整備が行われ、目標年次には、住民は、文化的生活を営むことが可能となるだろう。

 この目標達成のため町は、次に述べるような、施策を実施するものとする。
  二、町の施策の大綱
 基礎条件整備の方向
 (1) 土地利用基本方針
 近年本県においては、著しい都市化工業化の進展がみられると共に豊かな自然景観を生かした、観光開発も活発化している。本町の、北西部台地帯は、市原市に接し、地勢も類似している。

 市原市は、すでに新都市計画法に基づき、土地利用の規制区域である。このため、法的規制がゆるやかで、比較的低廉な本町の土地が、無秩序に侵蝕され始めている。これに対処するため合理的な土地利用計画を作成し農地の無秩序な潰廃を防ぐと共に、二次・三次産業用地や、住宅用地を確保し、自然資源の有効な活用と保護を行い、人間と自然と調和のとれた、豊かで住みよい生活環境を目途とした町造りを推進する。
 用途地域の配置計画は概ね次のとおりとする。
  ○農業用地 現在までに農業投資が行われた地域、および、今後農業投資の予測される、生産性の高い優良農地地域
  ○工業用地 本町の北西部を中心とした工場適地
  ○観光レクリエーション地域 山之郷地先ゴルフ場用地、笠森鶴舞自然公園に指定された権現森周辺及び、房総導水路計画によるダム予定地周辺
  ○住宅用地 地理的条件、及び、自然環境等、本町の特性を生かし、主として、高級住宅用地その他、一般住宅団地として、観光開発用地周辺を中心に台地帯を開発する。小規模住宅地については、主要道路近辺の生活環境に恵まれた地域を充てる。

 (2) 道路網整備の方向
 本町の道路網は県道が、東西に二路線、南北に二路線ありこれ等、幹線を連携する町道が接続して、形態的には発達している。しかし、近時、車輛等の飛躍的発展に伴い、その有機的な活用を図り、基幹道路の導入及び整備を促進する。

 県道については、その四九パーセントがすでに舗装され、未舗装道についても昭和四八年を目標の県計画の実現に努力し、全線舗装の完成を期する、一級・二級主要町道の現在の舗装率は僅か、〇・七パーセントであるが、長生郡市広域市町村圏広域ネットワークにより、昭和六〇年までに一・二級主要道については、全線改良舗装の実現に努力し、その他、主要道路についても、期間内の整備舗装を進め、産業経済の発展と住民福祉の増進に資する。
 (3) 住宅の建設
 地域開発に伴い、人口は増加し、一方既存世帯の細分化の傾向から、目標年次まで住宅需要は漸増するものと思われるが、民間資本の活用や、必要に応じて公営住宅の建設により一世帯一住宅の確保を実現する。

 また、本町が京葉工業地帯の後背地として、立地条件からも住宅用地としての開発が進むものと思われる。この実現に際しては、町の施策と、そごを生じないよう指導してゆくものとする。
 (4) 水資源確保の方策
 本町は、水資源の豊富な町であり、早くからその地下水を利用して茂原市が上水道事業を実施してきた。近年茂原市は内陸工業の開発に伴い上水道を拡張し、工業用水も本町の地下水を中心として取水しているため、本町の将来の開発に伴う水需要を地下水で満すことは困難である。現在の本町周辺の地下水の取水状況は別表のとおりである。

 
深井戸による取水状況
所 有名      称井戸数深 度取水量t/日
茂原市上水道 第1水源920~50m9,000
上水道 第2水源1510012,000
工業用水1010010,000
三井東圧121006,000~
7,000
帝国観光千葉国際カントリークラブ21351,800
45.2『畑作振興地下水調査』(千葉県)より

 
 従って、今後の地下水の取水は一〇、〇〇〇リッポーメートル/日程度しか期待できない状況で、今後農業用水の確保に留意しながら、生活用水の確保に重点をおき、国や県で計画している利根川用水利用の房総導水路の建設に積極的に参画し今後の需要に対処する。
2 産業振興の方向
 (1) 農林業の方向
 本町農業の現況は、従来よりの農耕法による米麦中心の経営方式が依然として多く、他産業との格差は大きい。この格差を縮少して、他産業に比肩し得る健康で文化的な農村社会を築くためには、農業の構造改善と共に有能な後継者が希望をもって農業に従事できる態勢を整えなければならない。

 従って従って、農家の経営規模の拡大をはかると共に、作業の協業・施設の協用・出荷の協同をめざし構造改善事業をはじめ、区画整理、畑地かんがい用排水の整備、農道の整備、更には交換分合などを積極的に推進する。また、普通作物は、生産の合理化を図り、直播栽培や、大型機械による省力化により、畜産物野菜養蚕果樹園芸等の成長作物の導入を、より強力に進め、将来需要の減退する見通しの農産物については、他産物への転換を図るよう指導する。また、農業振興の中核として農協機能の強化を図り、農協の大型化をめざして農協合併を促進する。(注 昭和五一年一月長生農協発足)
 本町の林業については、現在用材林としての造林地は少なく、広葉樹林がそのほとんどであるが、本町はすでに、水源林造成特認地域に指定されており、更に自然公園等もあり、山林の必要性は論を待たないところである。今後森林組合と共に、林道整備や優良苗木等の確保に努め、広葉樹資源の転換利用を進め、現在一部で栽培されている、椎茸・たけのこ等、市場価値の高いものについては、今後品種の選択、技術指導により更に普及に努め、林業所得の増大と育成を図る。
 (2) 工業振興の方向
 本町の人口の過疎現象を阻止し、地域の開発をめざすためには、工業の開発を促進しなければならない。現在の本町の工業としては零細な加工業のみであるが、今後は、公害の少ない企業を選択して、工場用地に誘致するほか、町内数ケ所にも、積極的に誘致し、農業と両立させて、町内人口の増加を図る。

 (3) 商業振興の方向
 本町、商業活動の活発化の要因は消費人口の増加にあるので、各開発計画を早期に実現し、これが増加に全面的な努力をはらうと共に、商工会を中心として経営指導商業診断等も強化し商業の近代化を促進する。また、資金の調達等を積極的に推進し消費者の需要に応じて、購売力の地元吸収を増加するように努める。

 (4) 観光振興の方向
 県立笠森鶴舞自然公園のうち、本町権現森近辺は、九十九里浜と内湾京葉工業地帯を一望に眺め、遠く三浦半島や、筑波山、更には、富士山を望む景勝の地である。また、近くには、ゴルフ場もあり、更に、ダムの建設計画等もあるのでこれ等を結ぶ遊歩道を設け、この地域を拠点として観光開発を促進し地元産業と直結した観光事業を計画して観光長柄の充実を図る。

3 生活環境整備の方向
 (1) 環境衛生施設整備の方向
 町民が、健康で文化的な生活を営んでいくためには、環境衛生施設の整備が必須の条件である。現在、本町は長生郡市一市七ケ町村で組織する長生郡市衛生組合に加入し、し尿処理をしており、四五年度からごみ処理についても、本組合の施設により業務を開始する予定である。しかし、農業の近代化が進むにつれ、自家処理は減退し、更に町開発の進展にともなって、この問題はますます重点施策として取り上げられる。したがって、郡市広域圏計画の施策と協力して住民の要望に応じ得るよう対処する。

 上水道(簡易水道を含む)布設の現況は、約六〇パーセント、一、〇〇〇世帯と茂原市の協力を得て、その普及につとめているが、今後宅造・企業進出に対処するためには、茂原市と緊密な連携を保ちつつ、更に広域上水道計画を促進することにより計画的に町内全域の普及をはかるものとする。
(注 昭和五五年七月一日、長生郡・茂原市広域水道組合発足)
 (2) 防災対策の方向
 現在、町の消防力は全面的に消防団に依存している。近時急速な社会開発に伴い消防組織の中心団員は勿論青年層の多くが近隣の工業地帯等に勤務、あるいは出稼ぎ等に出ており、常時万全な防災体勢を整えることは至難である。従って、郡市広域市町村圏計画にもとづき広域常設消防の設置を図ると共に防火貯水池等の防災施設を更に整備する。(注 昭和四九年、広域市町村圏組合消防団発足)

 (3)
 交通安全対策の方向
 悲惨な交通事故は車輛の激増に伴って年々増加している。この防止対策について万全を期さなければならない。歩道・信号機・ガードレール等の交通安全施設の設置、運転者・歩行者に対する交通安全思想の普及徹底を図ると共に、広域救急対策の充実を図り交通事故の絶滅に努め、町民生活の安全を図らなければならない。

 (4) 公害の防止
 町の開発に伴い、土砂・臭気等、局地的に公害現象があらわれてきているが、今後、企業進出により水質汚濁その他生活に直接影響する公害の発生が充分に予測される。

 この対策として、町は公害予防に重点を置き、企業進出については公害対策に特に留意する他、公害について町は積極的にこの解消に努力して住民の住み良い環境と、企業の健全な発展を図る。
4 社会福祉施策の方向
 (1) 社会福祉の増進
 住民ひとりひとりが社会的に均衡のとれた、心豊かな生活を確保することに社会福祉本来の目的がある。従って、町の開発が進み生活が向上することは住民の福祉向上の増進につながる。しかし社会全般の生活が向上すれば反面、長期疾病心身障害・単独老人・母子世帯等、社会開発のひずみが残される。被保護世帯、及びボーダライン層に対しては、国・県の施策と緊密な連携をとり、救済手段を講ずると共に各種の福祉制度を活用することにより民生委員等、ボランテアーの協力を得て防貧対策を推進する。

 社会状勢の変化は、老人層の増加、共稼ぎによる児童保育の問題、心身障害者の福祉、母子福祉等社会福祉事業の量的拡大のみでなく、質的転換が予想される。従って、国民健康保険事業との協力により老人医療費の完全負担や要保育児童の時間外保育の実施、その他質的内容の充実を期する。
 広域圏計画とタイアップして施設の整備を図ると共に、国・県の施策を活用して積極的に各種福祉対策の充実強化を図るものとする。
 (2) 社会保険の充実と保健医療の拡充
 社会保険は公的扶助とともに社会福祉制度の双壁をなすものである、国民健康保険事業は住民の七一パーセント、五、五〇〇人が加入しており効率的な運営により成果を挙げているが、今後更に効果的な財政運営を図りつつ長期疾病の完全給付を始め、給付内容の充実を検討してゆく。

 国民年金は被保険者、二、八〇〇名が加入している。この制度の経過的措置として、福祉年金受給者は、五〇〇人をこえているが昭和四六年四月から年金支給も開始される。今後住民異動の激増にともない国民年金の主旨に沿い年金受給権者の完全把握に努めるものとする。
 保健医療の面では近年医療の進歩は目覚ましく近い将来、総ての疾病の医療的解明も期待し得る。町内には医師四・歯科一・助産婦四、であるが近隣市町に比較的整備された医療機関を有している。今後、広域圏計画に沿い助産施設の設置を図り、更に町は予防対策を積極的に推進し環境衛生の整備と相まって、住民の健康管理に万全を期するよう努める。
5 人間開発の方向
 (1) 学校教育施策の方向
 新時代に対応する健全な人格形成を行っていくためには、教育施設の整備拡充が不可欠である。本町においては、従来から教育施設整備事業に力を注ぎ危険校舎は解消された。今後は義務教育についての父兄負担軽減を図りつつ教育内容を充実させるため教材の整備を推進する。更に、特別教室・プール等の付属施設の充実を期すると共に、児童生徒の体力向上のため運動場の整備拡充に努める。

 (2) 社会教育施設の方向
 社会教育の振興については、各種社教組織の育成を中心として活動を推進しているが、高度な近代化が予測される本町にあっては社会教育の重要性は極めて大である。したがって各種学級や、団体の育成、指導の強化を図り学習の場を設置し、体育及びレクリエーションを通じて、町民の意識の高揚に努める。特に本町において遅れている社教施設の整備と内容の充実を期する。

 (3) 青少年総合対策の推進
 地域社会は、青少年関係諸施設が有機的に関連しあい、青少年の健全育成が総合的に推進される場である。町の開発に伴い住民の連帯意識が希薄化する傾向にあるとき、青少年の健全育成こそ新しい町造りの基盤である。

 したがって国県でも青少年対策を特別に重点施策として取り上げている。地域社会では、家庭や、学校の機能を補完すると共に、青少年の自主活動を中心に、多様な活動を充実するために社会教育、児童福祉等の施策を拡充し、施設を整備し、指導者の確保につとめ、特に地域においての自主的活動の推進にあたる青少年関係のボランティヤの活動を促進するようつとめる。
 青少年に対する町民の意識を結集して、明日の長柄町を担う青少年の健全育成につとめるものとする。
6 行政近代化の方向
 (1) 広域行政の推進
 社会の進化にともない行政の合理化と共に、質的水準の高度化が要求されている。こうした要請にもとづき、社会基盤生活環境の改善をはじめ、住民福祉の施策について、必要に応じ近隣市町村と提携して、効果的に事業を推進する必要がある。したがって、今後ますます広域的立場から行政需要に対処するよう考慮するものとする。

 (2) 行政能率の向上
 七〇年代の行政は、ますます複雑多岐にわたる一方、住民からはより効率的な行政サービスが要求される。したがって行政処理の方法を改革して、住民の立場にたった能率的な運営と、新しい技術の導入によるスピーディーな事務処理等、一層の行政サービスの実現を図る。

  三、施策の推進
 この構想は、将来の町発展の指針とすべきものである。従って、施策の推進に当っては今後、その時々の社会情勢に対処しながらこの構想に沿って具体的な計画を策定し実施してゆくが、町単独では困難な面も多くあるので、国県の行政施策の動向や、社会経済の推移を見極め、これを充分に取り入れると共に、長生郡市広域市町村圏に属する市町村と密接な連絡を保ちつつ町民の理解と協力を得て町の進展と住民福祉の向上を図るものとする。