これまで西南暖地では、螟虫の発生と重ならないようにするため、稲の遅植えを余儀なくされていたが遅植では開花期に台風の被害に会うことになる。ところがパラチオン剤の出現によって二化螟虫退治ができ、稲作革命とまでいわれる稲の早期栽培を可能にした。有機燐系のホリドールは、今までの殺虫剤中最も強力で、「アブラムシ」でも一回の撒布で死滅する。二化螟虫駆除にも大きな威力を発揮したが、毒性が強いため、後に使用が禁止された。
殺虫剤だけでなく、稲もち病などの殺菌剤として、水銀粉剤が登場する。昭和二九年(一九五四)頃からのことである。
さて、昭和二八年頃県から紹介されていた農薬にどんなものがあったかというと、表1のように多種多様である。しかし、実際に三村で使用されたものをみると表2の通り、限られたものである。
表1 防除薬剤の値段(昭和28年) |
薬剤名 | 目方 | 値段 |
1 ホリドール乳剤 | 100cc | 350円 |
2 〃 粉剤 | 3K | 450 |
3 チオオス・フォスファ等 | (上に同じ) | |
4 B.H.C 1% | 3 | 210 |
5 B.H.C 3% | 3 | 350 |
6 D.D.T乳剤20% | 1 | 580 |
7 〃 粉剤 5% | 3 | 160 |
8 硫酸銅 | 1 | 160 |
9 スルフォン酸展着剤 | 0.4 | 110 |
10 生石灰 | 15 | 380 |
11 ウスプルン | 0.1 | 97 |
12 セレサン石灰 | 3 | 240 |
13 銅製剤 | 1 | 260 |
14 銅水銀剤 | 1 | 260 |
表2 いもち,めい虫薬剤使用数量及金額表 | (昭和28年10月) |
種別 町村 | いもち 面積 | 使用量 | 金額 | 二化めい 虫面積 | パラチ オン | 金額 | ||
硫酸銅 | 生石灰 | 展着剤 | ||||||
長柄 | 310反 | 232.5K | 465K | 18.6K | 50,034円 | 97反 | 291K | 48,500円 |
日吉 | 80 | 60 | 120 | 4.8 | 12,912 | 152 | 456 | 76,000 |
水上 | 50 | 37.5 | 75 | 3.0 | 8,070 | 142 | 426 | 71,000 |
この年は、長柄にいもちが多く、日吉、水上は、二化螟虫が多かった。翌二九年日吉村の場合をみると、防除面積が、ずっと増している。
これは前年に行い効果を収めたことによるのかも知れないが、その費用も大変なもので補助金を除き二四万円、(反当二四七円)で、米七五俵(一俵三千二百円)分にもなる。
表3 病害虫防除実績及補助金 | 日吉村(昭和29年) |
農薬名 | 数量 | 金額 | 補助額単価(2割) |
セレサン石灰 | 430袋 | 103,200円 | 240円→192円 |
ホリドール粉剤 | 105 | 39,375 | 375→300 |
パラチオン粉剤 | 416 | 156,000 | 375→300 |
ホリドール乳剤 | 12本 | 3,720 | 310→248 |
合計 | 302,295 | 60,459 | |
防除面積 (全面積の31%) | いもち病 430反……セレサン石灰 めい虫 545反……パラチオンホリドール |
しかし農薬は毒薬である。害虫や病菌も殺すが、益虫や人間も殺すのである。一時田んぼには、どじようや鮒の姿が見えなくなり、螢も全滅した。トンボがみえなくなった。それだけではない。薬づけになった米を食べることによって、人体が水銀で汚染されたり、いろいろな障害も起ってきた。
そこで、農薬についての見直しがなされ、害の少ないそして効果のあるものの開発が進められている。
農薬について今一つ、除草剤の出現をあげねばなるまい。稲作労働の中で最も厳しいものの一つに「田の草取り」があった。夏の炎天に、四ツん這いになって、稲の株間をかいて除草するのである。経験したものでなければ解らぬ苦労である。それが「2・4・D」という農薬の出現で、必要がなくなった。昭和二九年頃からのことである。その後また「PCP除草薬」がつくられた。前者が、繁茂した雑草を枯死させるものであるのに対し、これは雑草を生えさせない発芽予防剤である。これらの優れた農薬の開発によって、稲作の作業体系も変ってきた。PCPを用いれば、「2・4・D」は使わなくてもよいわけである。農薬の開発は、今後どこまで進むであろうか測り知れないものがある。