防除機具の開発と防除体制の組織化

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昭和二六年(一九五一)千葉県では、「病害虫防除推進要綱」(6)を発布、各町村に対し食糧増産のため、病害虫の早期発見と共同防除体制の組織化を指示した。これは、同年の農林省からの「主要農作物増産施設実施要項」に基づくものである。
 これによると、各町村では、町ぐるみの共同防除体制をつくり、防除の徹底を期そうとするもので、国→県→郡→町村と一貫体制をとる強力なものであった。このような組織は、既に述べたように、明治の半は過ぎから各村々に「○○村害虫駆除組合」がつくられていた。しかし、当時は、単に上からの指令と強制によって防除に当らせたものであって、何等必要な手段や補助はなされなかった。ところが今回は、全く質的に異っている。
 第一にすぐれた農薬の開発と補助があり、第二に防除機具の開発と補助がなされたのである。
 第一については既に述べたが、昭和二六年(一九五一)度種籾の消毒には、ウスプルンの全量の補助が行なわれている。その後現在まで相当な補助が行なわれてきた。
 
表4 昭26 水稲種子消毒計画(ウスプルン)(役場資料)
町村名作付面積反当種子
所用量
総所用量薬剤量補助数量
長柄
日吉
水上
2,587反
3,111 
2,740 
3升
3 
3 
78石
93 
82 
9.4K
11.2 
9.9 
9.4K
11.2 
9.9 

 
 第二の、防除機具の開発と補助の状況をみると、昭和二七年には、人力噴霧機が、長柄二三台、日吉一〇台、水上二四台だったが、二九年の日吉村の状況では表5のように増加している。これらの機械をフルに動員して、部落毎に共同防除を行ったのである。この年郡農会では、各村で新に購入する者には補助金を出した。その総額は動力噴霧機三〇台分、一一二万五千円、背負式動力噴霧機二〇〇台分一五〇万円となっていて、日吉では、背負式二台の補助をうけている。因みに動力噴霧機の値段は、丸山式クボタエンジン付で九万六千円、背負式で四万六千円であった。その後、昭和三〇年には長柄町全体で、人力噴霧機一三三台、撒粉機は人力一二四台、動力五台となり、共同防除活動は一層盛んとなった。しかし、全耕地を一枚ずつ防除してまわるのは、大変な重労働である上に、農薬による被害者も多かった。ところが、県では昭和三五年(一九六〇)から、ヘリコプターによる航空散布を開始し、忽ち県内に普及、本町でも昭和四三年頃からこの方法を取入れた。(7)これによって、全町民総出の防除作業も、僅か数人の防除員の手で、数日の中に全町の水田の防除が出来るようになった。次に本町に於ける五一年度航空防除面積と散布料金を掲げておく。
 
表5 防除機具所有台数(昭29)
動力噴霧機
〃 撒粉機
背負動力撒粉機
横行式人力噴霧機
手動式撒粉機
人力噴霧機
一台
〇台
〇台
六台
二八台
二二台
(長柄役場蔵)

 
 

航空防除(薬剤積込み)

 

昭和45年航空防除(長富)

 
表6 航空防除実施面積(五一年度)(長柄町役場資料)
基地名散布
地区名
散布面積
(ha)
散布量L
高山高山
大庭
不動
日ノ宮
長柳
田代
月川
辺田
三沢
篠網
稲塚
吹谷
金谷
笠森
深沢
小計
24.3
27.4
10.6
11.1
13.9
10.8
18.1
17.0
10.3
18.7
12.5
10.6
19.8
14.7
15.6
234.80
60.75
68.50
26.50
27.75
34.75
27.00
45.25
42,50
25.75
46.75
31.25
26,50
49.50
36,75
39.00
588.50
長富榎本
小榎本
徳増
長富
桜谷
鴇東
鴇西
立鳥
針東
針西
小計
37.5
21.2
35.9
17.5
39.9
25.9
25.2
29.3
21.7
33.7
287.80
93.75
53.00
89.75
43.75
99.75
64.75
63.00
73.25
54.25
84.25
719.50
力丸力丸
千代丸
山根
飯尾
下味庄
上味庄
船木
小計
29.3
25.3
27.2
3.4
12.7
16.2
10.8
114.90
73.25
38.25
68.00
8.50
31.75
40.50
27.00
287.25
合計637.501,593.75

 
 (二) 農薬散布計画及料金
農薬種類 カスチオンL微量
散布量  一〇アール当二五〇cc(原液)
散布料金 (一〇アール当り)
 散布費 一九二円(町負担)
 農薬代 五四五円(個人負担)
 事務費  二〇円(町負担)
  計  七五七円
 
   註
1 長柄村文書、役場所蔵
 長柄村害虫駆除組合規約書(明治卅五年五月)
第一条 本組合ハ害虫駆除組合ト称ン長柄村農会ニ属ス
第二条 長柄村ヲ以テ一区域トシ之ヲ三十六組ニ分ツ
第三条 本組合ノ事務所ヲ長柄村農会事務所内ニオク。
第四条 本組合ノ存続期間ハ五月一日ヨリ七月五日迄トスル
 但満期後継続スルコトヲ得
第五条 本組合ニ左ノ役員ヲオク
 組合長一名、組長一組一名宛、世話係一組三名宛
第六条―第九条 (略)
第十条 会議ニ於テ協議スベキ事項概ネ左ノ如シ
 (一) 組合会に於テハ
  害虫駆除方法 違約者処分法
  郡長ニ報告スベキ件、規約変更改正。
 (二) 組合ニ於テハ
  害虫駆除実施ノ順序方法、勤惰ノ監督方法
  経費ノ賦課徴収。
第十一条 組合会ハ十日毎トシ組合ハ適宜之ヲ開ク
 組合会ノ会長ハ組合長ヲ以テシ、会長事故アルトキハ世話係ノ年長者ヲ以テ之ニ充ツ
第十二条 組合長ハ十日毎、組長世話係ハ五日毎ニ組合員ノ耕地ヲ巡視シテ駆除ノ施行ヲ指揮監督シ其成績状況ヲ調査シ十日毎ニ郡長ニ報告ス
第十三条 組合ニ要スル費用ハ組合員ニ於テ収支ヲ議定ス
第十四条 害虫ノ駆除ヲ怠ルモノアルトキハ之ヲ郡長ニ報告シソノ指揮ヲ受ク
第十五条 本組合ハ害虫駆除ヲ励行シ各自ノ幸福ヲ計ル目的ナレバ組合員ハ平素相互ニ勤惰ヲ監督シ怠惰者ヲ出サザル様注意スルコト最モ肝要ニテ怠惰者ナキ様隣保注意スルコト
第十六条 害虫ノ駆除ハ左ノ模範標準ニヨリ之ヲ実行ス。
 第一 茲ニ害虫ト称スルハ稲作ニ害ヲ与フル螟虫及ビ浮塵子ヲ指スモノトス
 第二 螟虫ハ五月十五日ヨリ六月卅日迄ノ間ニ於テ螟虫、螟卵ヲ採集シテ殺スベシ
第三 螟蛾ハ日中ハ潜伏シ居リ、静穏ナル日ノ夕方ヨリ飛揚スルモノナル故黄昏ヨリ誘蛾灯ヲ点火シテ誘殺シ且ツ時々苗代ニ水ヲ深ク入レ捕虫網ニテ掬ヒ取ルコト
第四 螟卵ハ数多一纒トナリ葉端ヨリ一寸乃至一寸五分許下リタル表面ニ産ミ付ケアリテ、白黄灰色等ニテ光沢ヲ帯ビ居ルモノ故苗代ニ入リ太陽ヲ背ニスル如クシ、苗葉ノ上部ヲ注視シ行ケバ容易ニ認メ得ベキニ付之ヲ葉ト共ニ切り取り焼キ捨ツベシ但シコヌカ蜂ノ繭ヲ取リ殺スベカラズ螟卵ハ極メテ小ニシテ殆ンドソノ一粒ヲ認メ難キ程ニテ卵塊トナリ葉ニ密着スルモ、コヌカ蜂繭ハ稍大ニシテ明カニ一粒宛数ヘ得ベク且ツ六七糎宛糸ニ繋ガリ居リテ葉面ニ密着スルコトナキモノトス
 螟卵採集ハ少クトモ五日毎ニ行フベシ
第五 浮塵子ハ五月十日ヨリ六月卅日迄ノ間ニ於テ石油注入陥殺ヲ行フベシ
第六 此ノ法ヲ行フハ露ノ帯セル時ヲ可トスル故其時期ヲ見計ヒ、苗代ニ水ヲ湛ヘ、葉端ノ少シク現ハルル位トシ籾殻切藁等ヲ一面ニ撒布シ石油又ハ魚油ヲ苗代百坪ニ付一合乃至三合ノ割合ヲ以テ撒布シ、凡ソ半時間ヲ経過セル後、手箒ヲ以テ掃キ集メ掬ヒトリテ焼キ捨テ、油ノ混スル水ヲ流シ去リ、更ニ清水ヲハルベシ、而シテ此ノ法ハ少クトモ二回以上行フベシ
 但シ苗抜取後、ほとり苗及ビ残リ苗ハ浮塵子多数集リ居ルベキニ付其ハ石油注入法ヲ以テ殺スカ又ハ捕虫網ヲ以テ掬ヒ採リテ殺スカノ法ヲ行フベシ
第七 総テノ駆除ハ同時ニ之ヲ施行シ其ノ景況即チ人夫員数、駆除方法、駆除シ得タル害虫ノ種別、数量費用等ヲ控ヘ置キ、組合長ノ下ニ差出スベシ
第八 組合長ハ之ヲ取纒メ少クトモ十日分宛ヲ一括シ町村役場ヲ経由シテ郡長ニ報告スルコト(以上)
    組長  壱番 近藤七五郎
        弐番 本吉長松
        参番 佐久間平吉
        四番 本吉銀蔵
2 長柄小学校沿革誌
3 長柄村農会文書・役場所蔵
4 殺虫剤、殺菌剤使用量推移。『千葉県の稲作(農地課)』
5 長柄町役場所蔵
6 長柄町役場所蔵
 病害虫防除推進要綱昭和二六年千葉県
一 趣旨・緊急食糧増産の一環として、農業災害特に病害虫防除の徹底を期し関係諸機関を網羅して病虫害虫防除の実践母体を結成してその推進を図るものとする。
二 要領
 (一) 防除対策
  米・麦・大豆その他主要食糧農作物病害虫を対象とする。
 (二) 計画立案機関
  1 県協議会を設置し左の団体を以てする。千葉県病害虫防除協会
  2 地区協議会を設置し左の機関団体を以て構成する。
   地方事務所、農業共済組合連合会支部、地区農業改良委員会、県指導購売農業協同組合連合会支部又は農業協同組合の代表、県農薬商業協同組合出張所又は代表
  3 市町村協議会を設置し左の機関、団体を以て組織する。
   市町村農業調整委員会、農業改良普及員農業共済組合農業協同組合、農業改良実行員協議会代表、部落防除班の代表。
 (三) 実施機関
  1 県、千葉県農業共済組合連合会、県指導農業協同組合連合会をもって県病害虫防除実行本部とする。
  2 郡、県指導農業協同組合連合会支部、農業共済組合連合会支部
  3 市町村、農業共済組合、農業協同組合、農業改良実行員協議会、部落防除班その他適当なもの
 1・2・3については、計画立案機関が前記団体につき選定する適当な者又はその協同によって之に当らしめる。
 (四) 防除計画の立案及び実行
  1 市町村協議会は、防除の時期、方法、費用負担等に関する具体的計画を樹立し、市町村実施機関がその実施に当るものとす。
  2 地区協議会は、市町村協議会の定めた計画に基づいて市町村実施機関の指導に当る外、病害虫発生予察調査による災害に関する情報の収集伝達を行い、且つ動力噴霧機、手動噴霧機、撒粉機、種子消毒機、薬剤等を備えて発生地区への貸与又は市町村防除実施機関に協力して郡内の機動的防除を行う。又必要に応じて、巡回修理班、巡回種子消毒班を結成して、市町村の防除機具の修理、種子の消毒をも行うものとする。
  3 県協議会は、地区協議会の定めた計画に基き、県内病害虫防除の重点、防除面積、防除方法、資材の入手配分等県全体の防除計画を立案し、且つ防除の技術的指導講習会等をも企画する。県実行本部は、右の計画に基づいて、必要なる機材、薬剤の入手斡旋を行い、且つ自ら防除施設を設置して県内の機動的防除を行うと共に、郡下の実施機関の指導に当る。
  4 農業改良普及員は、右の実施につき、之を指導する。

 
(単位 ha)
年次ニカメイ
チュウ
クロカ
メムシ
ウンカ
ヨコバイ
葉い
もち
首い
もち
紋枯病首いもち
紋枯
ニカメイ
チュウ
クロカメ
ニカメイチ
ュウ,ウン
カヨコバイ
葉いもち
クロカメ
首いもち・
紋枯・ウン
カヨコバイ
首いもち
ウンカ,
ヨコバイ
その他
昭和35
36
37
38
39
40
41
42
43
44
45

755
2,126
2,020
6,041
6,448
6,826
1,117
7,130
3,077
5,795





1,113
1,080
1,074
2,499
2,601
1,541



5,006
7,949
7,917
1,153
2,101
1,881
880
909







3,143
265

2,318
2,341



21,106
6,007
176
644
2,477
298








645
719
908

6,592
21,567
24,963
26,031
8,300
23,189
10,353
18,988
16,934
19,241







5,226

6,500
7,123








1,285







1,176
796
1,445
1,590
1,465







9,427
11,576
12,896
9,171







5,391
396
141






2,466
2,197
749
2,282
2,318
9,688
23,693
31,989
40,021
44,884
41,897
41,001
47,503
50,097
46,451